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今月のWomanは染色工房「インディゴ気仙沼」代表 藤村 さやかさん

藤村 さやかさん
気仙沼の青い恵み「パステル」で染める
Profile

藤村 さやかさん/ 染め師・パステル栽培家

アメリカ生まれ。津波被害を受けた宮城県気仙沼市を訪れ、ご主人と出会う。結婚・出産を機に東京から移住。2015年、乳飲み子を抱え働くのに困り、同じ境遇の女性らと染色工房を立ち上げる。100%天然インディゴによる染色受託やオリジナル商品の製造販売。新規事業として世界的にも希少な染料植物パステルにアジアで初めて着手し、ファッション業界から注目を浴びる。
https://www.indigo-ksn.com


 パステル畑には一面、菜の花に似た黄色い花がつき、モンシロチョウやミツバチが楽しそうに舞っています。雨蛙、バッタ、なめくじと、その他にもたくさんの生き物がいて、野良仕事の手を止めて汗を拭きながら、ふと観察をしてしまいます。

インディゴ染めボタニカルストール
インディゴ染めボタニカルストール

 「人生は小説よりも奇なり」とはよく言ったものです。

 東京で働いていた私が、宮城県気仙沼に居を移すきっかけとなったのは、女友達に誘われた気仙沼への1泊旅行でした。テレビで見た東日本大震災の津波の映像が記憶に残っており、この地のことが気に掛かりながらも何をすればいいのか分からなかった、そんなころでした。

 縁とは不思議なもので、旅先の気仙沼で出会った男性と結婚し、小さな命を授かりました。私は長年暮らした東京の家を引き払い、新しい町で初めての子育てに奮闘することになりました。

1枚1枚手染め
1枚1枚手染め

 気仙沼は、少子高齢化の波にあらがえず、過疎地域に指定されています。子どもが少ないということは、現役ママ世代も少なく、それぞれが孤立しやすいということです。子育ての悩みや情報を持ち寄ろうと、ママ向けのイベントを開催したのが始まりでした。イベントで知り合ったママたちと会う回数が増え、仲間が広がっていく中で、「小さな子どもがいても働いて収入を得たい」というママたちの声をよく耳にしました。

 そこで、「気仙沼=海=ブルー」がイメージしやすく、子どもをおんぶしながらでも空いた手で仕事ができる、染色工房を構えることになりました。ターゲットは港町らしく、太平洋の向こうに広がる海外-。

 ママたちの若い感性でもって、モダンな藍染作品を得意としています。コーディネートが決まりやすい薄手ストール、野良仕事に適したスタイリッシュなTシャツやかっぽう着、藍の抗菌性を生かしたおむつ袋などのベビー用品も。コンセプトに共感いただき、海外からの視察の受け入れも増えています。

地元農家らの協力も得て、地域をあげた産業に。パステルが倒れないよう、支柱作り パステルの収穫
地元農家らの協力も得て、地域をあげた産業に。パステルが倒れないよう、支柱作り パステルの収穫

 工房では1年半前から、新しい試みをしています。きっかけは、「ママたちがやるからには、食べ物と同じように原材料表示ができるアパレルを作りたい」と話し合ったことです。

 夏の短い気仙沼。涼しさを好む植物を探してたどり着いたのが、ヨーロッパ最古の青い天然染料のもと、「パステル」です。

 パステルは中世ヨーロッパで大流行した染料です。この時代、それまで赤だった王族の服やナポレオン軍の軍服が青に変わり、絵画に描かれる聖母マリアのローブまでが青に変わったほどの流行ぶりでした。17世紀に、色が濃く、簡単に色を抽出できるインド藍(インディゴ)が航海によってもたらされ、世界の主流になっていきました。その一方で手間暇のかかるパステルは作られなくなり、その染色手法も途絶えていきました。

初めてパステルから青色色素を取り出す
初めてパステルから青色色素を取り出す

 現在、パステルを復活させて栽培しているのは、フランス・トゥールーズの狭い範囲のみです。当地から希少な種を分けていただき試験栽培を開始したのが、2016年の冬。そして昨年、初収穫を終え、パステルの葉っぱから青色色素を抽出することができました。試行錯誤の連続で、思い返してみても、仲間なしでは実現できませんでした。

 パステルで染めた生地は、少しグレーがかった、柔らかいパステルブルーになります。日本で藍染というと、どちらかというと男性的な強い青でしたが、パステルが醸し出す青は優しくおしとやかな雰囲気をたたえています。これまでの藍染ではつくれなかった雰囲気をつくれ、大人の女性に好まれるアパレルが作れるのではないかと、畑で手を動かしながら夢は広がります。

 女性ならではのエシカルでサステイナブルな染めをしたい。土の恵みを、畑から手渡しできる距離感で届けたい。その想いが実るのはもう間もなくです。


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