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本音のエッセイ

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今月の本音のエッセイは こどもコンサルタント 原坂 一郎さん

“隠された希望”に応えよ!

こどもコンサルタント 原坂 一郎さん

こどもコンサルタント 原坂 一郎

原坂 一郎/こどもコンサルタント

1956年神戸市生まれ。関西大学社会学部を卒業後独学で保育士資格を取得。男性保育士として神戸の保育所で23年間勤務。その後独立し多くの子育て事業を展開。メディアでは怪獣博士としても有名。著書に『男の子のしつけに悩んだら読む本』(すばる舎)など。

 今から37年前の春。念願の保育士になれた私は、希望に胸膨らませながら保育所の門をくぐりました。当時は男性保育士なんて珍しく、私の存在はよくも悪くもいつも目立っていました。

 赴任して2日目のこと。保育所のテラスを歩いていると、大先輩の先生(今から思えば、その先生がその園の主のような存在だったこともアンラッキーでした)が、プランターの土を一生懸命混ぜているのが見えました。私が近づくと、「よ〜いしょ!あ〜重い!」と言いながらプランターを移動させようとしていました。私はひと言、「大変ですねえ」とねぎらいの言葉をかけ、その前を通り過ぎていきました。

 が!それがいけなかったのです!たったそれだけのことが(私にとっては)大事件に!「今度の新人のあの男、気が利けへんでえ!」というニュースが、保育所中を駆け巡ったのです。

 そう、当時の私はまだ保育士2日目、女性の世界のことを知らなさすぎたのです。

 今ではわかります。女性が発する感想のような言葉は決して感想ではなく、そこには希望が隠されていることを。「重〜い!」と声に出して言ったなら、それは「誰か一緒に持って〜」なのです。もしも「届かな〜い」などと言ったなら、それは決して「私は届かない」という事実を言っているのではなく、「誰か取って」と言っているのです!そこを素通りなんてとんでもない!だって本人はその希望を声に出して言ったのと同じつもりなのですから。

 あの「事件」があってから、私は女性の言葉にはとても敏感になりました。例えば何かにぶつかって「いったあ〜い!」と大きな声で言ったときは、「大丈夫?と言って」というメッセージです。そばに誰もいないときはそんな大きな声で言いません。短く「痛っ!」で終わりです。「おなかすかない?」と聞いたときも質問ではありません。「私はおなかがすいた」という意思表示です。そのときは「すかないよ」なんて言わず、即座に「何か食べに行こうか」と言うのが正解です。

 今では私は、「これ短いわ」の妻のひと言でさっと長いのを取りに行き、「きょうゴミの日やった」と言い残して妻が外出した時はせっせとゴミ集めをしています。私の耳にはすべての言葉が正しく変換されて入ってくるのです。

 そんな耳になれたのもあの先生のお陰と、今では感謝をしています。

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