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本音のエッセイ

371号 日本野鳥の会理事 松田 道生さん

自然は癒やされない

日本野鳥の会理事 松田 道生さん

日本野鳥の会理事 松田 道生

松田 道生/日本野鳥の会理事

1950年、東京生まれ。執筆や講演、フィールドでの指導を通じて野鳥保護活動を行っている。日曜日放送の文化放送『朝の小鳥』の収録構成を担当。バードウォッチング入門書、野鳥図鑑など著書多数。近著では『鳥はなぜ鳴く?-ホーホケキョの科学』(理論社)。

 すぐ前を歩いていた仲間が「クマだ!」と叫んで、走って逃げて来ました。私もその後を追い、後から来た数名の仲間と合流して、まずは安心しました。叫んだ人は、真っ青になっていました。あとで、彼がクマを見た場所に行くと大きな足跡がありました。

 栃木県日光で山を歩いていると、こうしたツキノワグマとのニアミスがよくあります。ですから山道を歩く時は、とても緊張します。森に入る前に落ちている枝で木の幹を叩いて大きな音を出して人のいることを知らせます。耳と目はもちろん、鼻で獣の臭いがしないか、たえず周辺に注意を向けます。

 しかし、実際に怖いのは大きなクマより、小さなマダニやヤマビルです。

 マダニに刺されて足が大きく腫れたことがあります。マダニは、いろいろなウイルスを持っていて死亡例のある感染症が報告されています。とにかく刺されないようにしなくてはなりません。噛まれると血が止まらなくなるヤマビルもやっかいです。ズボンの裾が血で真っ赤に染まって気が付きます。ばんそうこうは効かず、タオルで縛り血が止まるまで何時間も待たなくてはなりませんでした。私は、鳥を観察し録音するために、じっとしていることがありますので、よく被害にあいます。

 都会の公園でも、肌を露出していれば蚊に刺されます。私は、夏でも長袖シャツに長ズボンです。温暖化の影響で、秋になっても蚊が活動していて気は抜けません。

 蚊ならば痒い程度ですみますが、怖いのはスズメバチの仲間です。アレルギーのある人は命に関わります。都会の公園でも春から秋は必ずいます。多くの人は気が付かないので、ひやひやします。スズメバチに遭遇したら動きを止めてそっとしゃがみ、スズメバチが飛び去るのをじっと待つしかありません。手で追い払ったら、かなりの確率で刺されますのでご注意を。

 山道の足元は、でこぼこしていてつまずくかもしれません。いつ、大きな枯れ枝が上から落ちてくるかもしれません。急に天候が変わって雷雨になることもあります。

 自然のなかは危険がいっぱいです。ですから、私は自然に癒やされることはありません。

 自然を知れば知るほど、自然のなかに入る時は緊張感を強いられます。自然に癒やされると思っている人は、本当の自然のなかに身を置いたことがあるのでしょうか。または、自然や生き物たちの知識がないのではと思ってしまいます。

 それでも、なぜ自然のなかに行くのか。これらの危険を知っていてもなお自然の素晴らしさ、魅力に惹かれるからです。

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