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本音のエッセイ

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今月の本音のエッセイは エッセイスト 末井 昭さん

本当のことはいくらでも話せる

エッセイスト 末井 昭さん

エッセイスト 末井 昭

末井 昭/エッセイスト

1948年岡山県生まれ。白夜書房取締役編集局長を経てエッセイストへ。著書『自殺』で第30回講談社エッセイ賞受賞。著書に『素敵なダイナマイトスキャンダル』『結婚』『末井昭のダイナマイト人生相談』『生きる』など。『素敵なダイナマイトスキャンダル』は、同タイトルで映画化され全国公開中。

 6年前まで会社の取締役をしていました。仕事といえば書類にハンコを押したり、月に5、6回ある会議に出席するぐらいで、大変なことは何もありませんでした。ただ、月に1回全社員を集めて売り上げなどを報告する全体会議があり、最後にスピーチをしなければなりません。それが苦痛で苦痛で…。

 人前で話すことが苦手ということもありますが、本音が言えないことがつらいのです。いくら頑張ってもこの状態では売り上げが伸びないとわかっていても、本音は言えません。まだまだ売り上げを伸ばす余地があるとか、心にもないようなことを言わなければなりません。本当のことを言うことは、会社に反逆することになるのです。

 嘘だと思いながら話すスピーチは、全然真実味がなく、迫力もありません。ボソボソと「まあ、頑張ってください」とか言ったあと、大抵自己嫌悪に陥ります。

 他にも歓迎会だの送別会だの忘年会だの社員の結婚式だのと、会社を代表して心にもない挨拶をしなければいけないときがあり、そのたびに憂うつになっていました。

 6年前にめでたく会社を辞めることができて、もう毎日が楽しくて楽しくて…。

 会社のストレスは、心にもないことを言わないといけないことにあると思っていましたが、机に座っているだけでストレスになっていたことがよくわかりました。ひどい会社だったわけではなく、自分が向いてなかったというだけのことですが。

 会社を辞めてから、本音でエッセイを書いているのですが、本音が言えるということはつくづく幸せなことだと思いました。たまにトークショーなどがあって、人前で話すことがあるのですが、100パーセント本音で話せるので、自分でも驚くほどベラベラ喋っているときがあります。人前で話すのが苦手だと思っていたけどそれは錯覚で、本当のことを話せばいくらでも話せることがわかりました。

 社会生活をする上で、本音が言えないことの方が圧倒的に多いと思います。それは仕方がないにしても、せめて1人ぐらいは本音で話せる相手がいてほしいと思います。でないと心がつぶれてしまいます。夫婦の場合は、それは夫か妻かになるのですが、「女房にほんとのことなんか言えるかい」とおっしゃる方もいらっしゃいます。

 会社でも本音が言えない、家でも本音が言えない人たちはどこに行くのか。

 大抵は行きつけの飲み屋に行って、ママさんに愚痴をこぼしています。星の数ほどあるスナックやバーは、日頃本音が言えない人たちが多いから賑わっているのかもしれません。

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