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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ187弾

多摩丘陵に農家レストランを開いたわけ

野村 徹也さん

一般社団法人農家料理高宮 代表理事
野村 徹也さん

日本大学芸術学部卒。教員の後、ミラノ工大編入。東京工大青木研究室所属、同潤会青山アパートなどの建替えに従事。8年前から農家レストラン高宮を経営する。


 都市計画に関心があった私は、市民参加を標榜している研究グループに参加して、実際に、まちづくりや村づくりにたずさわってきた。しかし、「専門家です」「研究者です」といって外から入っていった人間が、本当にまちづくりや村づくりができるだろうか―。そのときの率直な感想だ。土着しないかぎり、本当の改革に関与できないのではないか。

 そう気づいた私は、世田谷の自宅を処分し、多摩丘陵に200坪の土地を購入して移住し、そこで都市問題や地域の問題を考えることにした。

多摩丘陵でレストランを経営する

農家料理高宮の場所
写真(1)農家料理 高宮の食堂兼住宅
写真(1)農家料理 高宮の食堂兼住宅

 もともと、私は食べることに関心があった。戦後、大陸から引き揚げるとき、母を見失うまいと必死になって追いかけ、日本に着いたら想像を絶する食糧難。生きるため、自分の食い物は自分で確保しなければならない―。これが、私が食べることに関心を持つ原点だった。母は、必ずしも食べることに関心がなく、彼女から与えられた「宿題」のおかげで、自分でいうのはおこがましいが、料理の腕も、それなりに上達した(ように思えた)。よし、多摩丘陵で食堂をやってみよう、と決断したのだ。ちょうど8年前(2010年)の9月のことだ(写真(1))。

 その一方で、最近の「食」に対する不満が募っていた。つまり、食材と料理、農と食が離れ離れになっている。自分で食材を栽培し、それを収穫して料理をつくるという、本来の食の原点が忘れられているように思う。客の目の前で収穫した食材を使って料理を提供する「農家料理」という言葉を思いつき、「農家料理 高宮」という名前にした(高宮は母の旧姓)。

有機農法による食材自給

写真(2)傾斜地を利用した段々畑
写真(2)傾斜地を利用した段々畑
写真(3)隣地の休耕畑から侵入してきた竹の子
写真(3)隣地の休耕畑から侵入してきた竹の子

 そこで、200坪の土地のうち50坪を住宅兼食堂で使い、残り150坪で食材を栽培することにした。北側隣地が山林で、境界が急斜面になっている。その法面に、自力で段々畑を作り(写真(2))、最初に小松菜の種をまいた。続いて、白菜、大根、キュウリ、ナス、ホウレンソウ、ミョウガ、二十日大根、ゴーヤ、丸オクラ、アシタバ…と、手あたりしだい育てた。山林に隣接しているのでタラノメ、山ウド、シイタケも栽培し、建物のまわりにはスダチ、レモン、柚子を植えている。

 西側隣地は畑だったが、休耕している間に山林化し、何と、わが家の敷地に孟宗竹が侵入するようになった。春先には立派な竹の子が収穫でき、竹の子ご飯や竹の子の味噌漬けは店の名物の一つになった(写真(3))。客を驚かせ、感動させる―。それが農家料理食堂の喜びである。

 手製のコンポストに残飯を入れて良質の堆肥を発酵させ、土づくりをしている。連作障害を避けるため、作目を変える。自給率の向上と有機農法の導入は、まるで、国の農業政策のようだ。もちろん、150坪の畑だけでは食材を賄いきれない。近隣の農家を紹介してもらって、食材の供給を相談する。食材や料理方法を求めて、しばしば京都や奈良まで足を運ぶ。

食農教育の支援

写真(4)名物、羽釜とかまど
写真(4)名物、羽釜とかまど
写真(5)職業体験をした中学生たちの食事風景(向こう側は先生)
写真(5)職業体験をした中学生たちの食事風景(向こう側は先生)

 地域との接点を求め、創業と同時に、中高生を対象に食農教育に取り組み始めた。料理と農業―食農教育の基本は、1つの作業と同時に次の工程を想定する重複思考能力を身に付けさせることだと思う。食と農は人と人の交流を促し、とくに食育は自分の運命を自らの手で切り開く強い意志を備えさせる。

 地元の教育委員会に相談して公立中学校や都内の私立中学・高校に協力してもらい、中学生や高校生に、畑や食堂の作業に参加してもらっている。畑の雑草取りや薪割り、初めて見る羽釜をかけたかまどによる炊飯(写真(4))…。彼らは与えられた仕事を黙々とこなし、自分が重要な役割を果たしていることを実感する。そして、厨房作業を担当している仲間が用意した食事を、テーブルを囲んで一緒に食べる。食事のマナーも学ぶ。はじめて体験した労働が終わって喜々として食卓を囲む彼らの姿を見ると、私もうれしくなる(写真(5))。

 毎週のように通ってくる高校2年生のS君。彼には、高宮で、結構複雑な施設のマネジメントを学んで、将来、社会福祉施設などの運営能力を身に付けてもらいたいと期待している。

ハンディキャップをもつ若者の雇用

写真(6)黙々と薪を割る特別支援学校から来た生徒
写真(6)黙々と薪を割る特別支援学校から来た生徒

 特別支援学校の紹介で、軽度のハンディキャップを持った生徒にも門戸を開いている。彼らに共通するのは、与えられた一つの作業に取り組むまじめな姿だ(写真(6))。しかし、彼らはあまり就職の機会に恵まれていない。率直な人柄で、若干の障がいがある若者が、職住近接の職場で自立できないか、祈らずにいられない。

 それぞれの学校から、生徒を送り出した先生方が食事に来てくれる。生徒一人一人の職場体験の印象を聞くのもこのときだ。

地域の再生に取り組む

 1970年代後半、私は都市計画を学ぶため、イタリアのミラノ工科大学の大学院で過ごした。そのとき学んだ「ソーシャルファーム」と「ソーシャルコレクティブ」が、私が目指すまちづくり・地域づくりの最終目標である。

 ソーシャルファームは、ワイン、生ハム、オリーブなどを生産するイタリアの山岳丘陵地域で発達させた雇用形態で、ソーシャルは障がい者を含む地域社会を指し、ファームは契約・サインを表し、個人契約が前提だ。

 ソーシャルコレクティブは、非営利団体に行政セクターや営利セクターも加わって、複雑な社会問題を解決しようとするもので、「付加価値連合」とでもいったらいいのだろうか。大学院の講義を聞いているとき教授の説明が全く理解できなかったが、いまになって、つくづく、大切な考え方だと思う。

 非営利団体のレストランとして、一般社団法人の認定も受けた。いま、都の農業会議や市の農業委員会と相談し、地域に散在する休耕地の再生ができないか、農業技術の専門訓練を積んだ若者を新しい仲間に、議論を始めたところだ。

団地再生まちづくり3

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団地再生・まちづくりプロジェクトの本質

編著
 団地再生支援協会
 NPO団地再生研究会
 合人社計画研究所

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団地再生まちづくり4

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進むサステナブルな団地・まちづくり

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団地再生支援協会 www.danchisaisei.org/