地域再生を考える

2024年4月掲載

鳥取市鹿野町の廃校を劇場に
演劇がみんなのものであるために

鳥の劇場芸術監督・演出家 中島 諒人さん

鳥の劇場芸術監督・演出家
中島 諒人さん
1966年生まれ。大学在学中より演劇活動開始。2006年、鳥取で廃校を劇場に変え、鳥の劇場を設立。芸術的価値の追究と普及活動を両輪に、地域振興や教育にも関わる。2003年利賀演出家コンクール最優秀演出家賞。2010年芸術選奨文部科学大臣新人賞。
はじめに

地域再生。何が再生されるべきなのだろう。元に戻すとも聞こえるが、経済や社会の発展段階も世界状況も変化しているから、人口も人口構成も元には戻せないだろう。だとするなら、何を再生し新生するのか。

私は鳥取市の出身で、2006年(39歳でした)に現在の活動を開始した。それまで東京や静岡で活動していたが、鳥取市鹿野町の使われなくなった小学校と幼稚園の施設を仲間とともに手作りで劇場に変え、さまざまな活動を展開する中で現在に至る。創作した演劇作品を楽しんでもらうこと、創作体験の提供をさまざまな人を対象に行うこと、この二つを軸に活動してきた。

主な活動

〈現代演劇の創作〉
 現代演劇の創作がまずは柱となる。年間3、4本を発表している。直近は今年2月に三島由紀夫の『近代能楽集』から二つの短編を取り上げた。優れた戯曲(演劇の台本)を取り上げて、人間の素晴らしさ、美しさ、苦しみ、醜さなどについて考える機会を提供する。「演劇は難しい」という声をよく聞くが、そんなことはない。言葉、体、視覚・聴覚情報など、押し寄せるものが多いので、はじめての人は少し戸惑うこともあるかもしれないが、誰でも楽しめるものだ。子ども向けの上演にも力を入れている。

〈鳥の演劇祭〉
 2008年から毎年演劇祭を行い、今年で17回目を迎える。2009年の第2回から海外の劇団も招聘(しょうへい)しており、今年もフランス、韓国、ベルギーなどから作品を呼ぶ予定。城下町鹿野の町内に、複数の会場があり、一日で多くの作品を楽しめる。会期に併せて、地元のまちづくり協議会により「週末だけのまちのみせ」というフリーマーケットが町内のメインストリートを中心に催され、多くの人でにぎわう。

〈じゆう劇場〉
 障がいのある人とない人がいっしょに演劇作品を作るプロジェクト。鳥取県内から毎年参加者を公募し、シェイクスピアの戯曲などを用いながら、参加者の個人的な体験なども交えつつ、誰もが楽しみながら差別について、共に生きることについて考えられる作品を提供している。近年は鳥取県内の学校に出かけて小作品の上演、ワークショップを実施し、共生社会に向けての地道な取り組みを重ねている。

〈学校での表現ワークショップ〉
 学習指導要領が変わり、従来の知識・技能の習得だけでなく、思考力・判断力・表現力、さらに学びに向かう積極的な姿勢などが求められるようになった。演劇手法を生かしながら、グループワークによる創作的な活動を児童生徒に促し、コミュニケーション能力や他者と協働する力を身につけてもらう。新しい自分の発見、他者の発見につながり、クラスの人間関係を安定させる効果もあり、大変好評な事業。

施設全体の整備

体育館を劇場とした以外にも、古い教室を作業場や衣装・小道具などの保管空間として利用してきたが、老朽化により施設の更新の必要に迫られた。

鳥取市・鳥取県の協力により内閣官房デジタル田園都市国家構想の補助金を得て、来年春の完成を目指して新施設が作られることとなった。この新施設では、タイミングを選びながらだが、木工や塗装、衣装作りなどの創作体験もしてもらえるし、カフェ空間も作られる。2025年度にはグラウンドの芝生化や野外舞台建設も進められる。

演劇を軸にした新しい形の、出会い、発見、交流の場が生まれるので、ぜひ鳥取市鹿野町に注目してもらいたい。

見つけたこと・目指すこと

何が現在のコミュニティーに足りないのか。人の活力・元気が一番のかぎだと思う。生きる喜び、楽しさが今ほど失われた時代はあったろうか。現在の日本ほどにみなが息苦しさを抱えている国があるだろうか。多様性に対する不寛容、男女の差別、教育の画一化、貧富の格差の拡大。かつての経済成長の時代に隠されていた課題が、経済の停滞・グローバル化による競争の激化などによって露出している。他人と自分を比べる必要などない、私は私のままでいい、毎日楽しいことがある、そう思って笑顔で生きられる社会、生きていることが喜びである社会になることが必要。

人口最少県鳥取の中山間地での演劇創作と劇場運営をしながら、次のことを見つけてきた。①演劇は体を用いて、体に語りかける表現である。劇場は、観客の体をその語りかけに巻き込む場である。それが人間を勇気づけ、心の力を湧き上がらせる。②人間は表現したい生き物である。自分の内側にある見えないものを、語り表したいと思っている。内側のものを表に出すことで人間は救われるし、それを通じて人を深く受け入れ理解することができる。③国際的に開かれていることも重要。2月公演時にも韓国からの俳優の来訪があり、フランスからのインターンを受け入れた。これまで蓄積してきた多くの国の演劇人とのつながりをさらに発展させていきたい。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 2月公演、三島由紀夫『近代能楽集』より『卒塔婆小町』

    2月公演、三島由紀夫『近代能楽集』より『卒塔婆小町』

  • 「鳥の演劇祭」野外上演

    「鳥の演劇祭」野外上演

  • 「じゆう劇場」の上演の様子

    「じゆう劇場」の上演の様子

  • 高校生を対象としたワークショップ

    高校生を対象としたワークショップ

  • 新施設のイメージ(「鳥の劇場」×鹿野町地域活性化プロジェクト) 設計:建築設計事務所アトリエ・ワン

    新施設のイメージ(「鳥の劇場」×鹿野町地域活性化プロジェクト)
    設計:建築設計事務所アトリエ・ワン

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