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地域再生 -地域再生を考える-

地域再生を考える 第5回

地域のガバナンス型まちづくり
−合意形成のマネジメント手法−

吉長 成恭さん

ちゅうごくPPP・PFI推進機構 代表理事
吉長 成恭さん

広島大学大学院社会科学研究科社会経済システム専攻単位取得退学、パリ大学招聘講師、広島大学大学院客員教授などを経て、広島経済大学特別客員教授。脳神経内科医、医学博士、商学修士、一般社団法人KPC理事長。


PFIと医療ガバナンス手法

写真(1)英国PFI適用第一号病院、ダーレンバレー病院
写真(1)英国PFI適用第一号病院、ダーレンバレー病院

 保守党のサッチャー政権に始まった国営企業の民営化は、英国の再建に大いに貢献した。次第に民営化すべき事業分野も少なくなり、公共サービスの調達手法に従来のコンセプトと異なるイノベーションが必要となった。PFI(Private Finance Initiative)はそのための社会資本整備手法として推進され、1997年から政権の座についた労働党のブレア政権に引き継がれ、効果を上げた。

 1998年、筆者らは英国のPFIによる公共サービスの調達について、英国大蔵省のPFIタスクフォースのヒアリングから始め、地域医療・福祉サービス改革に焦点を当て、PFI適用第一号病院の定点観測を行うことにした(写真(1))。毎年の現地調査から見る地域の社会資本整備の経過から得たものは大きい。それまで劣悪といわれた英国の医療は、PDCAサイクルに代わるガバナンス手法(RAIDモデル)で『患者を中心としたファーストサービスのチーム医療』を目標に医療サービスの質の向上に成功した。プライマリ・ケアにシフトした地域包括ケアシステムは、デジタル(ネオアナログ)技術が地域医療サービスの質の向上に拍車をかけ、充実したシステムとなってきた。

 本稿では、日本の地域が直面している少子高齢社会の課題解決のヒントとなる公民連携のガバナンス型まちづくりについて、英国、米国、日本の地域づくりの一端を通して、合意形成のマネジメント手法の必要性を述べてみたい。

ジェネレーションXの生活志向

 1987年から2010年に調査された、ミシガン大学のジェネレーションXの約4000人に関する生活スタイルの長期的観察レポートは興味深い。1961年から1981年生まれで、アメリカ合衆国の人口のうち約8400万人が属する。しらけ時代の10代を過ごし、「リストラ」「ダウンサイジング」の就職難で成人を迎えた人々の特徴を、調査研究報告書は活動的で平衡感覚のある幸福な生活志向の人々であるとしている。

 ハーバード大学のロバート・D・パットナム教授は著書『孤独なボウリング』で示した、20世紀最後の10年間における米国のコミュニティ崩壊の進行の分析とその再生の重要性について、市民が自発的に社会参加する組織活動として多様な絆である「社会関係資本」の必要性を説いている。

 ジェネレーションXは、その前の世代であるベビーブーマーと違い、もはや孤独なボウリング世代ではない。彼らはデジタル世代でありインターネット環境が当たり前のライフスタイルである。子育てに熱心でコミュニティ活動への参加は生活の一部になっている。

地域暮らしと若者のソーシャル志向

 日本における「地域づくり」ムーブメントは、1990年代から顕著になった。PFIによるハード面の整備として1999年に法案が成立した。ソフト面では、地域住民の社会関係資本(ソーシャルキャピタル)が、地域の魅力の活性化につながることの重要性に誰もが共感を持ち、世代を超えての取り組みが始まった。ここには多世代、多様な文化や価値観が地域社会に包摂される社会での暮らしが、自身の「幸福論」と直結している。

 月刊誌『ソトコト』に代表される「ソーシャルする」潮流は、地方暮らしの幸福論を押し上げている。U・I・Jターンの田舎暮らしが活発な地域は、若者のソーシャル志向が、自助、共助、公助にマッチして、地域の魅力を醸成している。

地域スーパーマーケットの社会的インパクト

写真(2)ニューヨーク州イサカの地域通貨
写真(2)ニューヨーク州イサカの地域通貨
写真(3)シアトル郊外の地元スーパーマーケット有機野菜
写真(3)シアトル郊外の地元スーパーマーケット有機野菜
写真(4)シアトル郊外の地元スーパーマーケット精肉
写真(4)シアトル郊外の地元スーパーマーケット精肉

 地域の関係資本を具体的に示すものとして、地域通貨の地域内循環率がある。

 地域通貨として有名なのは、ニューヨーク州のイサカで、1991年に発行されたイサカアワーであろう。イサカアワーは紙幣による集中発行方式で「OUR」と「HOUR」のダブルミーニングになっている(写真(2))。

 コミュニティの価値に裏付けられたイサカアワーや、地産地消のコンセプトを前面に打ち出す地元スーパーは、社会的インパクトがある。シアトル郊外のスーパーマーケットは、多くの食材の仕入れ先を半径約2時間程度のエリアに限って取り扱う。それは地元の有機野菜であり、肉牛や乳牛は牧草で肥育され、決してホルモンや抗生剤の投与がないことを表示している(写真(3)・(4))。イートインには、惣菜が顧客の味覚に気にいらなければ、自宅に持ち帰った後でも返品可能であることの表示がある。

 島根県西部にある地元のスーパーマーケットは、これまで全商品の1割にも満たなかった域内生産の生鮮食品割合を、2割まで上げることで、地域に約10億円近い経済効果を生んでいる。

合意形成とガバナンス

 PFIやPPP(公民連携)、ジェネレーションX、地域で「ソーシャルする」日本の若者世代との共通項は、多様な価値観の合意形成が前提にある。

 ガバメント型の一元的な地域づくりから、公民連携による多次元で構成されるガバナンス型の暮らしやすい豊かな地域社会として、市民社会の形成に必要な社会基盤は、多様な価値観の合意形成が必須である。

PDCAサイクルとRAIDモデル

図(1)PDCA・ASI・RAID
図(1)PDCA・ASI・RAID
図(2)RAIDモデル
図(2)RAIDモデル

 まち・ひと・しごと創生法(2014年11月公布)を受けて、地方自治体は、KPI(重要業績評価指標)を示し総合計画を策定した。まち・ひと・しごと創生総合戦略には、国と地方の取組体制とPDCAの整備について、『国及び地方公共団体において、経済・社会の実態に関する分析を行い、EBPM(確かな根拠に基づく政策立案)の考え方の下、中長期的な視野で改善を図っていくためのPDCAサイクルを確立することが不可欠である。また、行政だけではなく、産官学金労言士や住民代表の参画を得ることで、縦割りの陥穽(かんせい)にはまることなく、効果的・効率的なサービス提供が可能となる。そうした統合的な体制の下、既存の政策同士の連携を促し、経済的・社会的ニーズを満たすために必要な政策体系を整える。同時に、都道府県や市区町村といった既存の行政単位に閉じず、必要に応じて広域的な取組ができるよう地域連携を促す。また、国・地方の情報システム改革や業務改革(BPR)等による運用コストの削減や業務体制の改革を通じ、捻出した「財源」や「人材」も活用する』とある。

 まち・ひと・しごと創生が総合的で中長期的視点で持続的な政策の実行ならば、仕事や生産性・確実性が高く、挑戦への複雑性が低いものはPDCAサイクルを、そうでない縦割りの陥穽にはまりやすく、合意形成が低くかつ挑戦への複雑性が高い政策立案と実行においては、RAIDモデルをマネジメント手法として併用するのが望ましいと考える(図(1)・(2))。

「地域再生を考える」編集委員会

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