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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ169弾

地方公共団体における公共施設マネジメントの取り組み
―これからの公共施設の再生―

足立 文さん

日本経済研究所 社会インフラ本部公共マネジメント部長
足立 文さん

1993年財団法人日本経済研究所入所。2009年株式会社日本経済研究所転籍。国や地方公共団体等からの受託調査業務に従事。最近は公共施設マネジメントをテーマに調査・研究を進めている。


公共施設マネジメントの広がり

 公共施設マネジメントの取り組みをご存じだろうか。今、地方公共団体において、一斉に広がっている取り組みである。

 公共施設は高度経済成長期に整備が進められ、多くの施設が築30年、40年を迎え、老朽化が進んでいる。また、地域においては少子高齢化や人口減少が進んでおり、現在のニーズに合わず、施設が余ったり、稼働率が低かったりという問題が生じている。一方、財政面では、税収の減少に加え、社会保障費が増加し、公共施設に投じる財源が減少しているという実態がある。こうした中で、進められているのが公共施設マネジメントである。

 公共施設マネジメントとは、地域内の複数の公共施設について、まちづくりの考え方に従って、そのあり方や整備の方向性を一体的に考える手法である。地域における公共サービスの機能や質の維持・向上を図りつつ、財政面での負担を軽減・平準化することを検討するものである。施設の老朽化や利用状況、コスト等をデータで整理して、「施設白書」や「施設カルテ」などの形で実態の「見える化」を行い、これらのデータをもとに、今後施設を維持するのに必要な費用やそれに充てられる予算を整理している。これまでの予算を大きく上回る費用がかかることが明らかになり、具体的にどのように取り組むか将来に向けた方針が示されている。

公共施設の再編の動き

いろは遊学図書館の様子。学校図書室と地域図書館として共用。授業時間中も子どもと大人が利用(出所:日本経済研究所撮影)
いろは遊学図書館の様子。学校図書室と地域図書館として共用。授業時間中も子どもと大人が利用(出所:日本経済研究所撮影)
生涯学習棟と学校棟の間の広場。子どもたちが元気に遊ぶ(出所:日本経済研究所撮影)
生涯学習棟と学校棟の間の広場。子どもたちが元気に遊ぶ(出所:日本経済研究所撮影)
ふれあいコーナー。地域との交流スペースとして活用 (出所:日本経済研究所撮影)
ふれあいコーナー。地域との交流スペースとして活用 (出所:日本経済研究所撮影)
出所:立川市公募資料から日本経済研究所作成
出所:立川市公募資料から日本経済研究所作成
旧小学校下駄箱。当時の状態がそのまま保存されており、撮影場所として人気(出所:日本経済研究所撮影)
旧小学校下駄箱。当時の状態がそのまま保存されており、撮影場所として人気(出所:日本経済研究所撮影)

 こうした中で、地域にある施設を見直し、今後の人口動向やまちづくりの方向性を実現するために必要な機能を整備する公共施設の再編の取り組みが始まっている。具体的には、類似の施設はできるだけまとめる集約化や異なる施設を合わせて整備する複合化、施設を持たずに民間施設を活用したり、サービス・施設そのものがニーズに合わなくなったものは廃止するというところまで、さまざまな手法が用いられている。この中で事例が増えてきているのが、公共施設の大きなウエートを占める学校施設の複合化である。

<埼玉県志木市立志木小学校の取り組み>

 学校の複合化は、まず余裕教室の活用という形で進んできた。文部科学省のデータによると、平成25年度で約6万5000件の余裕教室があり、そのほとんどが学校施設として活用されている。約3700件が学校以外で活用されており、学童保育、児童館、保育所等の子どもが利用する施設との複合化となっているものが多い中で、最近の建て替えや大規模改修においては、大人も対象とした施設などとの複合化事例が出始めている。

 埼玉県志木市の志木小学校は、建物の老朽化と耐震性に問題があった建物を建て替える際に、近隣にあった図書館(旧志木図書館→いろは遊学図書館)と公民館(旧志木公民館→いろは遊学館)を複合化している。

 この施設の特徴は、「学校教育」と「社会教育」の垣根を取り払い、お互い補いあおうという「学社融合」をコンセプトに整備・運営されていることである。学校を複合化する場合、児童生徒の安全を確保するために、一般市民と児童生徒の動線を完全に分離し、イベント等での交流や時間帯を分けた共用にとどまる事例も多い。しかし、この施設では、イベントでの交流に加え、図書館で子どもたちが総合学習の調べものをしている側で、一般利用者の大人が雑誌を読んでいたり、公民館で行われているサークル活動を児童がのぞいたりとさまざまな形で交流が生まれている。

 こうしたことを実現できているのは、検討に当たり、PTAや地域住民等を交えた市民検討委員会を設置し、施設の安全性や管理運営のあり方を議論することにより、丁寧に地域の合意形成を図ったことがあげられる。また、施設のハード面でも、職員室と廊下の間に壁がなく、保護者や地域住民が気軽に立ち寄れたり、ガラス張りや防犯カメラの設置により死角をなくしたり、市民が日常的に利用することにより、地域の目で監視している。

遊休資産の活用

たちかわ創造舎のカフェスペース。訪問時は小学生が放課後自由に過ごす姿があった(出所:日本経済研究所撮影)
たちかわ創造舎のカフェスペース。訪問時は小学生が放課後自由に過ごす姿があった(出所:日本経済研究所撮影)
旧小学校1階廊下。奥からスロープで自転車が入れるようになっている(出所:日本経済研究所撮影)
旧小学校1階廊下。奥からスロープで自転車が入れるようになっている(出所:日本経済研究所撮影)

 このように公共施設を再編し、複合化や規模の縮小・廃止により、生じた遊休施設や遊休地を有効活用する取り組みも始まっている。

 既存の公共施設は地域のコミュニティの核としての機能を有している場合もあり、遊休資産の活用に当たっては、地域と連携して検討を進めることが望ましい。

<立川市旧多摩川小学校の取り組み>

 旧多摩川小学校は、2つの小学校の統合により、廃校となった施設である。廃校後は、教育財産という位置づけを残したまま、市民による「たまがわ・みらいパーク企画運営委員会」が「子どもを中心に様々な人が集い、楽しみ、学びあう場」の活用方針のもと、暫定事業として旧多摩川小学校の管理や具体的事業を行っていた。3年間の庁内検討を経て、同委員会が行っていた「たまがわ・みらいパーク」の事業運営を1つの棟に集約し、もう1棟は新たな活用方針を取り入れた施設とするとともに、事業運営や全体の管理について、事業者の力を取り入れて展開するものとした。こうして民間事業者の提案により既存校舎を活用して整備されたのが「たちかわ創造舎」である。

 「たちかわ創造舎」は市の求める「インキュベーション・センター」、「サイクル・ステーション」および「フィルムコミッション」に係る事業を実施するとともに、それらを通じて市民や事業者等の多様な「出会い」と「交流」を創出する場として運営されている。

 新しい施設に生まれ変わっても、引き続き市民の委員会による施設の運営は行われており、市と民間事業者と市民の委員会とが三者で協定を結ぶことによって、従来からの市民の活動の場を確保しつつ、民間事業者が新しい機能を設置して、一定の事業収益を上げることにより、財政負担の軽減と地域の拠点としての価値を高めることを同時に成立させている。

 都心からドラマ等の撮影クルーが訪れたり、多摩川沿いのサイクリストの憩いの場となったり、演劇団体の活動の場となったり、地域の子どもたちのたまり場となったり、さまざまな人が交差する施設となっている。

ポイントはまちづくりと市民参加

 これらの事業の成功のポイントは、2つある。まちづくりの視点から必要な機能を整備することと、検討に当たって、地域の主体である市民が参加していることである。

 これからの公共施設の再編は、財政状況が厳しい中で選択が求められる時代となる。市民が主体となって、自分たちのまちに何が必要で、何を優先させたいかを充分に議論して、自ら決め、自らまちづくりに参加することが必要となるであろう。

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団地再生支援協会 http://www.danchisaisei.org/