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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ188弾

室内環境因子による健康影響への諸課題

野村 徹也さん

共立女子大学名誉教授
芳住 邦雄さん

Master of Science (California Institute of Technology)・工学博士(東京工業大学)。環境省環境審議会専門委員、東京都環境審議会委員を務める。


はじめに

表(1)基礎となる人間の条件
表(1)基礎となる人間の条件

 居住空間における快適性とともに健康を支える因子の確保は、団地再生を図る際の重要要因と言える。共働き世帯のみならず高齢者世帯の増加など、従前とは、異なる状況が現出しているからである。住宅の持つ物理的な条件、住宅内の化学物質等の条件、さらに、カビ・ダニなどの生物学的な条件に対する吟味は、再生される団地での居住環境を望ましいものにしていくための必須要件と言える。

 その基礎となる人間の条件を表(1)にまとめる(標準値は国、性別、年齢等で異なる)。

有害化学物質

表(2)室内濃度指針値 3)
表(2)室内濃度指針値3)

 室内環境には多様の化学物質が放出される。表(2)は、ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないとされる濃度としての指針値の取りまとめである。さらに、ノナナールには暫定値41、また、総揮発性有機化合物(TVOC)には、暫定目標値を400が目安として提示されている。

 そのうち、ホルムアルデヒドは、建材の接着、衣類のしわ防止、洗濯時の縮み防止など多様に使用されており、新しい家屋、家具および衣類により室内環境でのアレルゲンとなる要注意物質である。

 一方、居住ないしは施設利用者にさまざまな体調不良が生じ、それが室内環境の何かに由来すると推測されることがあり、このような体調不良はシックハウス症候群と一般に呼ばれる。その原因物質の1つにホルムアルデヒドがあげられている。なお、厚生労働省では、シックハウス症候群の医学的定義は困難であるとしている。

生物由来の有害物質

 まずは、ダニである。一般家庭では、チリダニ科のコナヒョウヒダニとヤケヒョウヒダニの2種類が最も多く見られる。室内のチリ、ホコリ、ヒトからの寝具への付着物、カビ等をエサとして繁殖する。そのピーク期は、夏から秋にかけてである。床面のダニ数は100匹/平方メートル以下が望まれるが、容易には達成しがたい。ダニは、虫体のみならず、その死骸、抜け殻、糞が室内空気中に浮遊し、アレルゲンとなりうる。

 さらに注目されるのは、カビの存在である。室内を浮遊するカビの胞子や菌糸の断片はアレルゲンとなる。カビが好む環境はダニの好む温・湿度とほぼ一致している。また、ダニはカビを好んで食べるので、カビが生えることはダニを増やすことにもなる。カビの発生しにくい環境づくりが重要である。

アレルギー反応

図(1)免疫反応とアレルギー反応との比較 1)
図(1)免疫反応とアレルギー反応との比較1)

 ヒトの体内に細菌、ウイルスあるいは化学物質などの異物(抗原)が侵入すると、その異物に対抗する物質である抗体が作られる。そうした侵入物を抗体により排除しようとするのが免疫という仕組みである。通常、免疫は外敵から身を守り自分の体に有利に働くものであり、その例であるIgGは、ヒト免疫グロブリンの70〜75%を占め、血漿(しょう)中に最も多い単量体の抗体である。

 しかし、免疫機構が不利な方向(過敏に反応)に働くと、ぜんそくやじんましんなどを引き起こすことになる。この人体にとって不利益な反応を起こすことをアレルギーといい、アレルギー反応を起こす原因物質をアレルゲンと呼ぶ。図(1)にその概念を示した。

図(2)抗体・抗原によるアレルギー反応 1)
図(2)抗体・抗原によるアレルギー反応1)

 一般に、アレルゲンとなるものには、前述したダニ、カビ、ペットの毛、花粉、昆虫、食物などがある。それらに対してアレルギー症状になるかどうかは個人、つまり個体により差がある。この場合には、IgE抗体が作用する。図(2)に示すように、IgE抗体は、皮膚や粘膜にあるマスト細胞の表面にくっつき、ダニや花粉、食物などのアレルゲンが入り込んでくるのを待っている。これが感作である。この感作された状態で再び原因物質が体の中に入り込むと、マスト細胞についているIgE抗体と結びつき、その刺激でヒスタミンなどの化学物質が放出される。これらの化学物質がさまざまなアレルギー症状を誘発する。マスト細胞は、造血幹細胞由来のものであり、気管支、鼻粘膜、皮膚など外界と接触する組織の粘膜や結合組織に存在する。

ノーベル医学生理学賞受賞 本庶佑教授

 こうした免疫機構に関わる概念において、がん治療を実現したのが本庶佑京都大学特別教授であり、本年12月10日のスウェーデンの首都ストックホルムでのノーベル賞授賞式に臨む。

 白血球は、体の中に侵入してきたウイルスや細菌などから、常に命を守り続ける免疫細胞群である。その1つを構成するT細胞には感染した細胞あるいはがん化した細胞を見つけて排除する作用がある。一方、がん細胞には免疫細胞の攻撃から逃れようとするさまざまなメカニズムがあるため、体内の免疫細胞の活動だけでは、がんを完全に攻撃するのは難しいという原理的な問題がある。換言すれば、がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れる仕組みを見破り、そのブレーキである免疫抑制の働きを持つ分子「PD-L1」の作用を阻害する方法が求められていた。免疫チェックポイント阻害薬がまたれていたのに応えたのが本庶佑教授の成果である。がん免疫療法の道を拓く、画期的成果である。

結び

図(3)室内環境におけるアレルゲン発生の態様 1)
図(3)室内環境におけるアレルゲン発生の態様1)

 人生100年時代にあって、積極的に健康づくりを進めていく生活スタイルの構築が長寿社会の質の向上には不可欠な考え方である。人は誰しも多かれ少なかれ病気や障害と共に生活している。潜在能力を十分に発揮して生活することがなによりとの健康観も定着しつつある。本稿では、健康・快適居住環境に関して、すべての人がより高い生活の質をもって、より健やかに生きるための課題を取りまとめた。総括として室内環境でのアレルゲンの発生態様を図(3)に取りまとめた。要点検個所の数々である。団地再生への一助となれば、幸甚である。

参考文献
1 東京都福祉保健局:健康・快適居住環境の指針(2017年)
2 大気環境学会室内環境分科会:室内空気汚染の現状と今後の展望(2018年)
3 大気環境学会関東支部:有害大気汚染物質のいま(2018年)

団地再生まちづくり3

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