女子大生がお祭りで起業
観るから”担う“へ。伝統を未来へつなぐ

- とらでぃっしゅ株式会社 代表取締役
片桐 萌絵さん - 2004年愛知県奥三河地方生まれ。国指定重要無形民俗文化財「花祭(古戸)」の担い手。広島大学在学中に20歳で、民俗芸能専門のコンサルティング企業・とらでぃっしゅ株式会社を創業。女子大生お祭りオタクとして、等身大の地方創生を実践中。
お祭りとともに生まれ、お祭りに翻弄(ほんろう)された幼少期
私は、愛知県奥三河地方に伝わる国指定重要無形民俗文化財「花祭」の担い手の家に生まれた。世襲制がいまも色濃く残る伝統的なお祭りであり、一家総出でお祭りに携わるのが当たり前の家系だった。私自身も3歳で担い手デビューを果たし、冬の寒空の下、夜通し続く舞を観るのが日常だった。いわば、“お祭りの英才教育”を受けてきたのである。
ところが中学2年の冬、「女人禁制」という言葉を初めて知り、「生理がきたから」という理由で元服を意味する要の舞をやらせてもらえなかった。同級生の男子がかっこよく舞っている姿を私はただじっと観るだけ。あんなに大好きだったお祭りが、突然遠い存在になった瞬間だった。
それでもお祭りを完全に嫌いにはなれず、むしろ「なぜ人は祀るのか」「お祭りが地域で果たしてきた役割は何か」という文化的な側面に興味が湧き、高校時代はお祭りの研究に打ち込んだ。
同時に、全国のお祭りがコロナ禍で休止し、現代社会において人々の絆がどれほどお祭りに支えられていたかを痛感した。「お祭りは、人々が帰る場所をつくっているんだ」と感じた私は、デジタル技術を活用しながらお祭りの価値を残す方法を模索。VRやモーションキャプチャー技術を用いた舞のデジタルアーカイブを研究し、全国大会で発表する機会も得た。
その経験を経て、大学1年の秋に任意団体「とらでぃっしゅ」を創立。地域文化と若者をつなぐ活動を本格化させ、大学3年の春には株式会社として法人化した。現在はビジネスの力を借りながら、実現したい美しい世界に向けて全力で事業に取り組んでいる。
お祭りは「地域の鏡」
地方の過疎化や少子高齢化が急速に進む中で、お祭りもまた静かに姿を消している。ある調査では、10年間で約26%ものお祭りが途絶えた地域もあるという。だが、お祭りは単なるイベントではなく、心を合わせる「人生そのもの」だと私は思っている。
「ハレの日」に光が当たるのは、その背後にある「ケの日」があるからこそであり、地域の人たちは1年かけて準備を重ね、ハレの日に笑い、泣き、酔いしれる。お祭りとは、私たちの喜怒哀楽をありのまま表現することが許される瞬間であり、地域の個性をそのまま映し出す鏡だと感じている。
だからこそ、お祭りが元気であることは、地域が元気であることと同義であり、お祭りの火を絶やさず、そこに関わる全ての人が誇りをもって暮らせる地域をつくることが重要だと思っている。お祭りをたくさんの人が愛し、たくさんの人が応援する─科学技術やITが発達し、生きることが効率的になった現代社会だからこそ、そんなあたたかい「つながり」が溢れる美しい地域を築いていきたいと思っている。
「お祭り魂育成塾」ー観るから“担う”へ
とらでぃっしゅ株式会社の事業の柱のひとつが、地域体験プログラム「お祭り魂育成塾」である。観光客としてお祭りを「観る」のではなく、担い手として「参加する」ことを何よりも大切にしてプロデュースしており、参加者は数週間前から地域に入って地元の方々から伝統的な技術を直接教わる。そしてお祭り当日は、地域の一員として「魅せる側」になり、終了後は慰労会にも参加して地域の人と笑い合う。
このプログラムを通じて、全国各地の大学生たちが新たな担い手となり、お祭りに参加している。途絶えかけていたお祭りが息を吹き返した地域もあり、地元の人たちも外部からの刺激を受けて「もう一度頑張ろう」と心を燃やし始めた。中には、卒業後も1年に一度、お祭りの日に地域へ帰ってくる若者もいて、お祭りを通じて「第二の故郷」が生まれていく様子を、私は本当にうれしく思っている。
お祭りは単なる観光資源ではなく、人と人とのつながりを生み出すきっかけである。お祭りを通じて、地域と、そこに生きる人々の「ディープなファン」を増やしていきたいし、お祭りには十分そのポテンシャルがあると確信している。
これからの夢─美しいと思うもののために生きる
お祭りには、その土地の人々の「生きる証」が刻まれている。舞や音、香り、笑い声─それらのすべてが、地域と、そこで生きる人々の大切な記憶だ。私たちの代でこれほどまでに美しいお祭りの数々を絶やさないために、これからも現場に立ち続けたい。そして、1人でも多くの人に「自分のまちのお祭りを誇りに思う」きっかけを届けたい。
お祭りは決してハレの日だけのものではなく、そこに至るまでの暮らしや関係性を表象する地域文化そのものだと思う。どうか皆さんも、暮らしのすぐそばにあるお祭りを少しだけ気にかけてみてほしい。そしていつか、私たちと一緒に美しいハレの日を迎えられたらうれしく思う。
私は、私が美しいと思うもののために時間を使いたい。これからも、愛するお祭りとともに真っすぐ生きていく。
「地域再生を考える」編集委員会
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