地域再生を考える

2026年8月掲載

玄界灘の漁業を未来へつなぐ
魚食の消費拡大と漁場再生への挑戦

特定非営利活動法人 浜‐街交流ネット唐津 代表理事 千々波 行典さん

特定非営利活動法人 浜‐街交流ネット唐津 代表理事
千々波 行典さん
1958年佐賀県生まれ。水産大学校卒業後に佐賀県庁に入庁し、普及事業や漁場環境及び魚病の研究に携わる。漁業者からの要望により2008年に法人を立ち上げ、衰退傾向にある沿岸漁業の活性化に取り組む。2018年佐賀県庁退職後に事業を本格化する。
沿岸漁業を取り巻く環境変化

国内の沿岸漁業を取り巻く環境は、2000年頃から大きく変化しています。まず国内における魚介類の1人当たり年間消費量は、2001年の40.2kgをピークに減少を続け、2023年には21.4kgにまで半減しており、特に若年層で顕著です。その要因は肉類の消費増加や食生活の多様化などがあげられます。消費量の減少は魚価安につながります。

次に漁場環境をみると、海水温の上昇により魚の生息域が大きく変化しています。九州北部沿岸域では、商品価値がない南方系ウニ「ガンガゼ」の分布域北上により、藻場が消失する「磯焼け」が拡大しており、佐賀県玄海地区(玄界灘沿岸域)では、年間25haのスピードで藻場が消失しています。藻場は、魚介類の産卵や稚魚の餌場・保育場としての機能を有しており、磯焼けの拡大は海藻を餌とするウニ、アワビなどの減少に限らず、その他水産資源にも大きな影響を及ぼし沿岸漁業の生産力低下につながっています。さらに、近年増加傾向にある海洋プラごみが、漁網に入るなど漁業操業への影響もみられています。

水産基地としての機能低下

このような環境変化は漁家経営不振の一因にもなっており、後継者不足、高齢化、漁家減少と生産構造に大きく影響を及ぼしており、玄海地区の漁家数は25年間で半減しています。このままではあと数十年で漁業者がいなくなってしまいます。

現在、水産物の自給率は50%程度です。漁業者が減っても輸入を増やせばよいとの見方もあるかもしれませんが、近年の世界的な健康ブームによりその国際取引価格の上昇や円安の影響で輸入量は減少に転じています。2050年には世界人口が97億人になると予想されており、ますます輸入が難しくなることが予想されます。将来、魚介類を食べることができない「フィッシュショック」となる可能性もあります。

当法人設立の経緯

当法人は、このような環境変化により漁家経営に影響がみられ始めたため、2008年に漁業者からの要望を受けて設立しました。当初は、私がまだ県の仕事をしていたため、土日中心に浜の情報発信や水産加工品の販売支援などの取り組みだけを行っていましたが、退職後は積極的に事業を拡大しています。

・消費拡大へ向けた取り組み
 魚介類消費量の減少要因は前述しましたが、一方で消費者の魚介類に関する意識調査では、「魚を食べる機会を増やしたい」、「調理を簡素化したい」とした消費者が多いことも事実で、私たちはこれを消費拡大の一つのヒントとして捉えています。そこで、2011年から子どもたちを対象とした親子魚料理教室、2018年から漁業の六次産業化を進めるため専門家を交えて消費者ニーズに対応した簡単調理加工品の開発・製造(※現在休止中)、2023年からは児童養護施設への魚介類寄贈と海への関心を高めてもらうための釣りなどの海体験プログラム寄贈を行っています。料理教室には、毎回多くの申し込みがあり魚食への関心の高さに手ごたえを感じるとともに、教室後に家庭での魚食が増えたとの礼状もたくさんいただきました。

・漁場環境改善へ向けた取り組み
【藻場再生】私たちは2022年から唐津市で藻場再生活動を開始し、4年間で1.2haの再生に成功しています。最近はアオリイカやコウイカ、サヨリ等の海藻への産卵も確認し、水産資源の回復に期待しています。一方で、藻場にはCO2吸収・固定機能(ブルーカーボン)があり、私たちが再生した藻場が吸収するCO2量は、1haあたり年間約3t(※ホンダワラ類のCO2吸収量で試算)になります。
【海洋プラごみ回収と固形燃料化】海洋プラごみ問題は海岸管理者の佐賀県に対して、佐賀県海岸漂着物対策推進地域計画に基づいた海岸漂着物の円滑な処理を要望していますが、まだその対応はできていません。私たちは自分たちでできるところから始めようと、2022年からボランティアや漁業者でその回収を始め、年間約2tを回収しています。通常、回収された海洋プラごみは、焼却場で焼却されて多くのCO2を排出していますが、私たちは回収したほぼすべてを環境にやさしいRPF(石炭に代わる固形燃料で、焼却処分に比べCO2排出量は半分以下)に加工しており、これまでに約9.4tのCO2排出量を削減しています。藻場再生と海洋プラごみ再利用でCO2削減に少しでも貢献したいと考えています。

最後に

魚介類は、これまで日本人にとって身近で健康を支えてきた栄養豊かな食材です。将来、安定して魚介類の供給体制を維持するためにも、後継者が育つ経営環境を確保し水産基地機能を維持する必要があります。当法人は、佐賀県へのふるさと納税(NPO等の支援)で、「浜‐街交流ネット唐津」を応援先に指定していただいた皆さまからの寄附を活動資金として活用しています。寄附者の皆さまには、返礼品として玄界灘の魚介類をご用意しています。

「地域再生を考える」編集委員会

  • 正常な藻場とガンガゼによる食害で海藻が失われた海底

    正常な藻場とガンガゼによる食害で海藻が失われた海底

  • 海岸に漂着した海洋プラごみ

    海岸に漂着した海洋プラごみ

  • 児童養護施設への魚介類寄贈

    児童養護施設への魚介類寄贈

  • 親子魚料理教室で魚料理に挑戦

    親子魚料理教室で魚料理に挑戦

  • 藻場再生活動により再生した藻場

    藻場再生活動により再生した藻場

  • ふるさと納税の返礼品の一例(玄界灘の魚介類)

    ふるさと納税の返礼品の一例(玄界灘の魚介類)

  • 佐賀県ふるさと納税の「浜-街交流ネット唐津」への応援は、2次元コードから

    佐賀県ふるさと納税の「浜‐街交流ネット唐津」への応援は、2次元コードから

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