官民をつなぎイノベーションを創出
離島・隠岐の島でつなげるご縁の輪

- 株式会社エル・ティー・エス Social&Public事業部
齋藤 拓也さん - 1983年島根県・隠岐の島町生まれ。東京大学文学部考古学科卒。人材派遣会社を経て、経済産業省の出先機関である中国経済産業局へ。創業、補助金、地方創生、観光関連産業等、中小企業支援に関わる。2020年3月にクレジオ・パートナーズに参画。25年9月にエル・ティー・エスに参画。事業承継・M&Aエキスパート、ウェブ解析士。
地域から首都圏、官から民へ
私の故郷「隠岐の島」は、島根半島の北東約80㎞、日本海に浮かぶ群島である。正確には隠岐諸島であり、単一の島ではなく、隠岐の島町・海士町・西ノ島町、知夫村の町村があり、4つの有人島と多数の無人島で構成されている。約600万年前の火山活動により形成され、断崖・奇岩が連なる独特の景観を有し、太古では石器として活用された黒曜石の産地等、さまざまな地質遺産が存在している。また、天皇の配流の島としても有名であり、隠岐古典相撲等、固有の歴史文化が息づいており、2013年には世界にも認められ、「ユネスコ世界ジオパーク」に認定された地域である。
隠岐の島には、当然ながら大学は存在しない。高校卒業時に、全ての若者が「島に留まるか、出るか」の選択が迫られる。
私は東京で大学生活を過ごし、卒業してから2年間人材派遣会社で営業を経験した後に、広島へ移り、中国経済産業局において公務員として地域企業の支援に関わってきた。途中、東京に舞い戻り、本省で創業支援政策等に関わった後、2020年のコロナ禍が始まるタイミングで地域の資本政策コンサルティング会社であるクレジオ・パートナーズへ入社。2025年に「デジタル時代のベストパートナー」を目指すエル・ティー・エスへ転職。どの立場でも「地域を元気にしたい」と思う気持ちは変わらず、地域と首都圏、官と民、それぞれの領域を飛び越え、つないでいくキャリアを歩んできた。
“地域の可能性”を解き放つ、官民をつなぎイノベーションを創出
エル・ティー・エスは加速度的に変化が激しくなるデジタル時代において、変化に対応するためのベストパートナーとなることを目指し、“可能性を解き放つ”を理念としている。特に所属するSocial&Public事業部は、“地域の可能性”を解き放つことをテーマとしており、行政・大学・民間企業と連携し、地域にインパクトを創出するための共創エコシステムの形成に取り組む。
具体的には、広島県「イノベーション・ハブ・ひろしまCamps」・静岡県「SHIP」といったイノベーション拠点運営をはじめ、先進的なAI企業による広島県内での活躍を促す「AIサンドボックス」、伴走者であるシェルパと挑戦者であるクライマーがタッグを組んで新規事業にチャレンジする「PANORAMA」、広島市のスタートアップ・マインド育成事業「Colorful」等のエフェクチュエーションの手法を取り入れたイノベーション創出プログラム、大学研究者と経営人材のマッチングを図る「PALETTE」、地元高校生と企業をつなぐ「RE:DAYS」等に取り組む。
地域に根付いて活動することで、人と人、組織と組織を、境界を越えてつながりを紡ぎ、地方創生に向けた地域発イノベーション創出の環境を整備する。
離島から見通す「地域」の可能性
現在、私は隠岐の島に島外の経営者を招聘(しょうへい)するサステナブルベンチャーツアーを実施している。私1人だけの力ではない。全国各地でご縁をつなぎ、経営者に価値を提供している杉浦氏(代表世話人株式会社 代表取締役)および隠岐の島町役場に、きっかけとご支援を得て、2023年・2024年と開催し、2025年も7月に約40名の経営者をお迎えした。
「隠岐の島出身であることを活かしたい」という軽い気持ちでスタートしたが、開催するたびに、隠岐の島および、私の人生にとって、さまざまな意味を与える存在になりつつある。地域にとっても、各分野の第一線で闘う経営者にご来島いただき、価値を認めてもらうことで、島の自信につながる。島外と触れ合うことで、島の課題を再認識する。島を気に入っていただいた方とチームを組み、新しいプロジェクトにつなげていく。ご縁の輪が広がるにつれて、島に新しい風が吹く。
地域からイノベーションを起こす取り組みも、その本質を捉えると、共感し、他を受け入れ、ビジョンを共有し、共に進むことである。人口減少・少子高齢化という時代において、「島」という地域も、内に閉じるのではなく、外を受け入れ、時には連携することが求められている。地域そのものが社会・世界に価値を提供する存在にならなければ、いずれ忘れ去られてしまう。
現在広島に住む私個人としても、以前と異なる故郷と関わる機会を得ることができた。故郷から離れてもなお、故郷とのつながりを望む。そう感じる人間は、実は多いのではないか。「どこに住むか」ではなく「どう関わるか」。UIJターンとは異なる流れを捉え、関係性の引力を生み出すことが地域の役割である。地域への想いが広がり、つながり、別の時代・地域に生きる私の子どもたちにも、何かの形で遺したいと強く願う。
「地域再生を考える」編集委員会
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