地域再生を考える

2024年5月掲載

熱海のまちづくり
「熱海銀座」再生。その先は、観光と居住の調和

株式会社machimori 代表取締役 市来 広一郎さん

株式会社machimori 代表取締役
市来 広一郎さん
1979年静岡県熱海市生まれ。大学院で物理学を修了したのちビジネスコンサルティング会社に勤務。2007年熱海にUターンし、まちづくりを開始。11年にmachimoriを設立し、シャッター街だった熱海の中心市街地を再生してきた。

熱海はいま、若者の観光客が多く訪れる観光地となっています。まちには多くの投資が流入し、飲食店などの出店や、ホテルの建設が相次いでいます。そんな熱海も2011年までは観光客が減り続け、まちはシャッター街と化していました。熱海の中心市街地に位置する熱海銀座通りも当時は3分の1が空き店舗というシャッター街でした。

エリアリノベーションの取り組みと成果

この熱海の中心市街地を再生することを目的に、machimoriを設立しました。そして、特に衰退していた200mほどの商店街のある熱海銀座というスモールエリアに絞って再生を行ってきました。

誰も出店しないエリアだからこそ、まずは自らリスクを取って一つずつ空き店舗を借り、投資してリノベーションし、自ら店舗を経営する、ということを地道に繰り返してきました。2012年のカフェ「CAFE RoCA」の立ち上げを皮切りに、「guest house MARUYA」、「ロマンス座カド」、「Kiten」という三つの宿泊施設、コワーキングスペース「naedoco」などを立ち上げてきました。

結果として、2016年頃から出店者が相次ぎ、2021年には空き店舗がゼロとなり、閑散としていた熱海銀座は若者で溢れる通りとなりました。熱海銀座のエリア人口は増加に転じ、新たな雇用が200名以上は生まれ、また地価は上昇し続けています。

こうした経済面だけでなく、地域コミュニティの再生という成果も表れ、減少の一途だったお祭りへの参加者も、増加に転じ、盛り上がりを見せています。地元の方と外から入ってきた方がいい形で融合できているからこそ生まれた光景です。そしていま、エリアリノベーションの動きは熱海銀座だけでなく、周辺エリアにも波及し始めています。

成功により生じた課題、観光と居住のバランスが崩れ始めている

一方で、この変化は、成功したが故の問題も引き起こしています。熱海銀座は土日や繁忙期には歩道は店舗の行列や歩行者で溢れ、歩くのもままならない状況です。地元の方は熱海銀座や周辺の中心部に行くことを避けるようにもなってきています。

観光投資の増加により、ホテルや民泊施設、リゾートマンションばかりが建ったり、また飲食店も似通ったものに画一化されていきつつあります。喫茶店など昭和から続く個人商店が集積する多様性と「昭和の街並み」も消え去ってしまう可能性もあります。いま、新旧入り混じった雰囲気が好まれている熱海が、自らその価値を失ってしまうリスクもはらんでいます。

熱海の街は、コンパクトなエリアに観光と居住が共存していることが価値であり、観光と居住のバランスが重要だと考えています。そのバランスが崩れ、短期的な収益を求める観光に大きく傾いていき始めています。

実は観光という側面からも居住の問題は重要テーマとなっています。近年、旅館・ホテルの稼働率が上がりきらない状況となっていますが、それは需要側の問題ではなく供給側の問題です。働き手が確保できず、人手不足のため、十分に宿泊客を受け入れられずにいます。全国的な人手不足という要因の他にも、働きたくても住居の質が低い、住居がそもそも見つからない、ということが起こっています。

住む街としての価値をいかに高めていけるか

この熱海も20代~30代の減少など人口減少は変わらず続いています。実は問題は住宅問題であり、「住みたくても普通に住める家がない」ということにあり、熱海には住まず、周辺地域から通う街となっています。その原因は、住宅が二極化し、新しい家賃の高いリゾートマンションか、築50年~70年の築古のボロボロなままの物件か、となってしまっていることにあります。

これをなんとかしようと、2019年にマチモリ不動産を立ち上げ、こうした築古物件のリノベーションを行い、居住できる部屋を数十室つくってきました。また旅館などの熱海の事業者とも連携して社員寮のリノベーションなども行ってきました。

そしてさらに、私たちが目指しているのは「まちごと居住」。街にシェア・スペースをつくっていこうとしています。実は熱海の物件は風呂なし物件なども多く、また面積も狭い物件が多くあります。そうした不利な部屋を単体で考えるのではなく、シェアリビング、シェアキッチン、銭湯など街に共有スペースをつくり街全体で暮らせるようにすること。これがコストを抑えながら、豊かな暮らしを実現する重要な手段だと考えるからです。

これまでのエリアのリノベーション、そして住宅のリノベーション、この二つを掛け合わせての取り組みを模索しており、また、商業地である熱海の中心部だけではなく居住地である郊外エリアのエリアリノベーションに挑んでいこうとしています。

「地域再生を考える」編集委員会

  • シャッター街となり閑散としていた熱海銀座

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  • エリア再生に寄与した宿泊施設「guest house MARUYA」。飲食、温泉施設などを利用し宿泊することから地域への波及効果が生まれた

    エリア再生に寄与した宿泊施設「guest house MARUYA」。飲食、温泉施設などを利用し宿泊することから地域への波及効果が生まれた

  • コミュニティ再生の象徴。年々増加する熱海銀座のお祭りの参加者

    コミュニティ再生の象徴。年々増加する熱海銀座のお祭りの参加者

  • 熱海銀座は、行列のできる店舗が増え、人で溢れている

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  • マチモリ不動産が手がけてきた住宅のリノベーション

    マチモリ不動産が手がけてきた住宅のリノベーション

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