準備編・発注編でその流れを説明をしましたが、施工会社も決定し、工事を施工する段階となりました。
いよいよ着工となるわけですが、入居者としては工事がどのように進むのか心配されるところです。
そこで専門家としての技術、ノウハウを活かし、施工会社や管理組合と打合せ、協議を行い入居者に分かりやすく説明して、不安を解消させてくれるのが工事監理会社ではないでしょうか。それでは工事監理について述べてみたいと思います。

●監理はなぜ必要か!

マンションの大規模修繕でなぜ工事監理が必要なのでしょうか?
大規模修繕工事をする際には、すでに施工会社への工事費という出費がある中で、一見「不必要、または余分なお金を使わずとも工事は終わる」と考えられるのも無理からぬことです。
施工会社自身が自主検査を行うところも少なくはありませんが、この自主検査はどうしても保身の方向に働くきらいがあります。
昨今では一流と呼ばれる企業が外部取締役を置いたり、内部監査が機能せず外部監査に頼らざるを得ない事柄が新聞などでも多く報じられています。内部けん制システムが有機的に機能することは、それほど困難なことなのです。
工事監理会社は管理組合側にたち、かつ契約書通りの範囲の工事が行われ、契約書通りの品質が得られることを目的としてその職務に努めるのです。
一見、不必要な費用が実はこの当たり前の「品質確保」に欠くことができないのです。

入居者説明会工事監理会社は大規模修繕工事着工前に「入居者説明会」を開くよう施工会社に求めます。
これは大規模修繕工事成功のための重要ポイントになります。入居者説明会では次のような事項について説明がなされます。

(1)仮設建物(現場事務所・トイレ・倉庫等)の設置場所等
(2)駐車施設の車移動
 (足場を組むため駐車が出来ない場合等)
(3)作業時間・休日等の設定
(4)安全対策
(5)入居者への工事についての案内・連絡方法・苦情窓口
等が着工前の打合せで管理組合(理事会・修繕委員会)と工事監理会社が協議し、施工会社に要望します。
大規模修繕工事は新築工事と違い、住民が日常生活を送る中での工事となります。
施工会社は、工事を進めるにあたって施工中のお願いごと、注意事項等をまとめ入居者の皆様方に説明します。施工会社が説明するお願いごと・注意事項は、
(1)工事をどの場所から始め、進めていくかの施工順序
(2)騒音説明(下地補修)
(3)高圧水洗いによる窓面からの水の侵入対策
(3)鉄部塗装による材料からの臭い、換気方法
(5)塗装中の汚水防止対策
(6)バルコニー施工に伴う設置物(室外機、植木鉢、その他の品物)等の移動時期、および洗濯物が干せる日・干せない日の案内
(7)工事施工中の防犯対策
(8)工事期間中に施工会社が配布する資料(車の移動・施工場所での物品移動等)
となっています。
入居者の方々に工事の進め方を理解していただきスムーズに工事ができるための最初のコミュニケーションの場が「入居者説明会」なのです。


足場設置
日常生活を送る中での大規模修繕工事となるため、施工の段階でいろいろな制約があります。

その一つに外壁部分を施工するために必要な足場設置があり、その制約には、
(1)車の駐車制限
(2)駐車進入路での進入制限
(3)足場架設中および架設後の歩行制限
(4)材料置場および搬入方法についての対策
があります。これらを考えながら足場を設置します。
また、コスト面から見ても全体工事費の中で足場架設費のウエートは高いため、たかが仮設とはいえません。そこで足場架設が必要な工事を合わせて施工したいものです。
例えば、バルコニーの工事を、個別訪問によって行うと入居者の方と調整をしなくてはならないという問題がでてきます。また、コスト的にも割高となるので是非とも足場架設時に施工することをおすすめします。

仕様の確認
品質管理の第一歩として工事に先立ち、工事監理会社は施工会社に次の書類の提出を求め、仕様書通りの品質を有する材料が実際に使用され、その工法が正しいものであるかどうかを確認する作業に取りかかります。

(1)使用材料一覧表
(防水材料、塗装材料などが仕様書通りであることの確認用)
(2)施工要領書
(工事の環境条件、工事方法、手順、分量などを具体的に表したもの)

施工前調査立会い
実際の工事のための足場が組立完了すると、施工会社に施工前調査を行ってもらいます。

日常的に目のとどく廊下、階段等以外の足場がなくては調査できない部分のひび割れ、鉄筋の錆び露出、それによるコンクリートのはがれ等、この調査でマンションの劣化部分の全容をはっきりと認識することができます。
実際に普段気の付かない縦といの割れや、放置しておくと将来落下事故の危険のあるタイルの浮き、コンクリートのはがれ、漏水の危険がある大きな亀裂等がこの調査で発見されることが珍しくありません。
たとえば機械の調子が悪い時に、直す前にまずどこが悪いのかを突き止めるのと同じことで、大規模修繕工事を行う上で非常に大事なステップがこの調査になります。
工事監理会社は足場の上から実際にこの調査に立会い、その確認作業を行います。
調査もれが無いか、部位ごとの補修方法が適切に施工会社に認識されているか等の確認を行うのも工事監理会社の大事な仕事のひとつです。

下地補修工事
施工会社は前述の施工前調査に基づき劣化の程度に応じた下地の補修工事を行います。
足場のある大規模修繕工事を行う際、見落しの無い下地補修工事を行うことは、その後の建物の寿命を保持するためや財産の被害を未然に防ぐ上で最も大事な工程のひとつです。
それだけに、工事監理会社もこの点に過敏なほど神経を尖らせることになります。
下地補修工事が実際にどのような部分に行われるかを写真を見ながら説明してみましょう。

(1)外壁等のひび割れ
室内への漏水事故は屋根からのものばかりではなく、壁からのものが意外にあります。
写真(1)のようなひび割れは雨水の浸入を防ぐため、隙間自体を塞ぐことが必要です。大きなひび割れ、つまり表面的でなく、構造体の中まで達している可能性のあるものは次のような処置が必要です。
・ひび割れに沿って小さな溝状に表面をカットします。
・カットされたスペースに防水材料であるペースト状のシール材を充填し、その隙間を塞ぎます。
・そのシール材を保護し、表面の硬さを保つために、樹脂モルタルという材料でカバーします。

(2)露出した錆び鉄筋
写真(2)のように鉄筋が露出したり、仕上げの薄皮を一枚かぶったような状態は本来あってはならないことですが、新築工事の際に、施工管理が行き届かなかったことによるものでしょう。
鉄筋コンクリートの建物は、鉄筋とコンクリートのそれぞれのよいところを合わせ、構造的に成り立っていますが、鉄筋がコンクリートによって、しっかり保護されていることが必要です。
コンクリートという着物をきちんと着ていない鉄筋は写真Aのように錆び、その進行如何によっては本来の性能を発揮できない危険をはらんでいます。
その処置としては、次のようなことがあげられます。
・錆び鉄筋の体積の膨張によって押し出されたために、浮いていたり、落ちそうになっている部分のコンクリートを撤去します。
・鉄筋の錆びを取り除き、錆び止め処理を施します。
・周辺のコンクリートの活性化処理をした後、できるだけ厚さを確保しつつ樹脂モルタルを施します。
塗装を掛ける前の下準備は「念には念を入れて」が大切です。

(3)鉄部の錆び
写真(3)は錆びというより、鉄が朽ちているといった方がよいくらいの状態です。
この状態では単に塗装のみでは対処できないため、材料そのものの取り替えや溶接などの補強工事が必要となります。
きちんと維持管理されているものと比べると、その工事代金には雲泥の差が出てくる可能性が大きいのです。
鉄部の維持は、このような悲惨な状態になる前の処置がとても大切であることがおわかりでしょう。
鉄部の塗り替えに際して、工事監理会社は次の作業の徹底に努めます。
・浮いている旧塗膜の完全な除去を確認します。
・錆の除去についても入念にチェックをします。
以上の点はあたりまえで簡単なようですが、案外下地処理が不完全な状態で塗り替えが行われることが多いようです。
新たな塗装をかけると一時的には、きれいに補修されたかのように見えますが、このような鉄部塗装は遅かれ早かれ錆びが噴出してきます。

美装工事
前述の下地補修が完成すると美装工事に入ります。

マンションの外観イメージを大きく左右することになる美装工事だけに、入居者の関心も高まります。
一方、個人の色、柄の好みもさまざまなため、一例として工事監理会社は次のような方法で、仕上げ色の決定の手助けをしています。
・工事監理会社が全体のバランスを考慮して床、壁、天井の仕上げ色の組み合わせを三組ほど提案します。
・大きめの見本板(90センチメートル角程度)をホールなどに掲示します。
・約一週間の後、アンケートをとり、多数決によって決定します。
具体的には部位ごとに次のような工事が行われます。

(1)屋根
屋根については美装というよりは防水の機能の復元を目的とした工事が主となります。
経年した防水層には躯体の動き、気象条件、それ自体の動きにより硬化、膨れ、よじれ、破断といった現象が現れます。写真(1)にその一例がみられます。
こういった状態の防水層を補修し、かつ新たな防水層を施す改修工法が現在の主流です。
直接紫外線を受けたり、雨や気温の変化等、厳しい条件下におかれる防水層は改修工事のあとも保護塗料の定期的な塗り替えや点検をすることで、長持ちさせることを考えたいものです。

(2)外壁
マンションの外壁の多くは磁器質タイルと吹き付けタイルという外装材料で仕上げられています。
磁器質タイルや目地の汚れはコケや排気ガスによるものが多く、高圧の水で洗い流したり、洗剤を使用してしつこい汚れを除去します。
その後、撥水剤を全面的に塗布すると、長期的に建物を汚れから守ることも可能です。
吹き付けタイルは劣化すると、チョークのように手を白く汚すなど粉化します。
さらに劣化がすすむと、躯体から剥がれたり、錆び汚れが表面に出てきたりもします。
こうした劣化部分を高圧の水で洗い流したり、除去したりして、新たな塗膜を施すと、マンションが見違えるように美しくなります。
最近の技術開発により、耐候性の高いものや汚れにくい塗料の選択も可能となっています。

(3)床
廊下やバルコニーの床面は従来、コンクリートの直押えやモルタル塗りで仕上げられていることが多かったのですが、ひび割れや浮きが発生することが少なくありませんでした。
こうしたひび割れは、構造上大切な鉄筋を錆びさせたり、水漏れをおこすこともあります。
最近では、大規模修繕工事の際、廊下の防水も兼ね、歩行感はソフトで深夜のコツコツ音も解消できるシート貼りなどで仕上げられるようになってきています。
見た目にも美しい柄が多く高級感もあるため、実際に施工されたマンションなどでも大変喜ばれています。予算が許せば是非おすすめしたい美装工事のひとつです。
バルコニーの床(写真(5))には防水性の高い塗膜防水がおすすめです。
床の構造体を守り、下の階への水漏れなどを起こさないため、不要なトラブルなどが発生しません。


進捗状況報告会
工事の進捗状況に応じた適切な段階で管理組合(理事会・修繕委員会)と工事監理会社、施工会社の三者で報告会が行われます。

その内容は、
(1)下地劣化状況の調査報告
(2)部位ごとの仕上り状況の報告、その後の工程予定
(3)管理組合および施工会社双方からの要望・お願いごと等の調整
以上のような内容の報告会を行い、入居者・施工会社が連絡を密にして工事をすすめていくことが望まれます。

検査
大規模修繕工事では、二つの大きな検査が行われます。

(1)中間検査
足場解体前の主に外壁仕上の確認
(2)竣工検査
すべての工事が完了したことの確認
各検査とも、施工会社の検査、工事監理会社の検査を行った後、理事会・修繕委員会など、入居者自らの目でも確認します。
手直し工事、手直し検査を行った後、竣工引渡しとなります。
各検査時には、事前にアンケートを各戸に
配布し、その内容についても対応を行います。
工事監理会社は、各工程で仕様書通りに施工がなされているかを確認し、入居者の方に報告を行います。

報告書
大規模修繕工事の報告書は、いわば、マンションのカルテと考えてください。

どのような工事がされたのかを記録に残すことにより、今後の維持管理に有効な資料となります。
主な内容は
(1)契約書関係書類
(2)保証書
(3)使用材料リスト、および材料カタログ
(4)色相表
(5)工事工程表および工事写真
で構成されています。

10 定期点検
定期点検は、工事発注の段階で年限を定めて行うよう、設定します。

点検は工事監理会社、施工会社が現地確認し、報告書を管理組合に提出する形が一般的です。
定期点検時にも、各戸へのアンケートを実施し、対応をします。
年月が経過することにより、いろいろと不具合箇所が出てくることが予想されます。大規模修繕工事に関係する箇所については、保証書、瑕疵担保の範囲内で工事監理会社を通じ、施工会社に対応させるようにしましょう。