北海道フルーツカービングクラブ代表 冨谷 久子さん
キャリアを磨きたい、一生の仕事を見つけたい、そんなアクティブな女性へパワーを与えられたら
何かを目指してひたむきに頑張ったり、自分の仕事に情熱を注いで生きる、輝いてる女性に注目しました。


冨谷 久子/北海道フルーツカービングクラブ代表
フルーツベジタブルカービング協会副理事長、清水ひとみ氏に師事。清水氏に同行してタイで研修。2002年、 北海道フルーツカービングクラブ発足。道新文化センターを中心に、レッスンのために札幌・旭川・函館などを回る。STV「どさんこワイド」“新しい習い事”に出演のほか、道内新聞・雑誌などで多数取り上げられる。
http://www7.ncv.ne.jp/~manpuku/
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職務質問
 札幌で初めて開催する展示会のために、私は函館から夜行列車に乗り込んだ。作りたての野菜・果物の花たちを自分の手で、開催日当日、会場のデパートに届けたかったのだ。今回のメインは、何といっても3L玉サイズのスイカである。全体に花びらを施したこの作品は、その華やかさもさることながら…重さも超一級品である。しかし、ここでくじけてはいけない!北海道随一の大都市での展示会なのだ。この超重量級のスイカを運ばずして何とする!!と自分で自分を励ましつつ、ほとんど引きずったボストンバッグを手に早朝の札幌駅へと辿り着いた。
 改札の手前には“テロ警戒中”の腕章を付けた警察官が、凛々しく檀上に立っている。「やっぱり都会だなぁ」などと、暢気な眼差しを向けていた私を彼は呼び止めた。
「おはようございます。バッグ重そうですが…奥さんの物?」
「はい。スイカが入ってるので…」
「スイカ?確認させてもらってもいいですか?」
…確かに、挙動不信者であろう。早朝のホーム…。ボストンバッグを引きずる女…。警察官の目を引くのも、仕方あるまい!?
今年の展覧会。おばけのズッキーニと人参のダリアとバラと葉。右手にカボチャのバスケットと紅芯かぶ。左手にリンゴのレース模様と大根のプルメニア。左手奥には聖護院大根のしゃくやく
ハロウィーンのいろいろなカボチャたち
「えっ!?奥さん。これがスイカですか??」
「はい。丸ごとのスイカに、お花の飾り切りをしてるんです。メロンとかも入ってます…全部出しますか?」
 この後、目が点になっている警察官に、バッグの中の花のような物がすべてナマモノであることを確認してもらったのは言うまでもない。4年前の夏の出来事である。

「カービング」って?
 野菜や果物を本物と見紛うばかりの花などに仕立てあげる、フルーツベジタブル・カービングであるが、そもそもは、タイ王国の伝統工芸である。昔々、シャムの国と呼ばれていたころから、王宮の中で、王や王の客人をもてなすために受け継がれ、今では日本においても各団体や協会などが立ち上がっている次第である。
 カービングには1本のナイフだけを用いる。細かな細工も、堅いカボチャなどの素材も、すべて小刃ほどのカービングナイフ1本で仕上げる。刃渡り5cmほどの先の鋭い両刃のナイフを鉛筆のようにして持ち、彫り上げていくのだ。人参で作る、一輪のバラなども、所要時間は5分から10分くらいだろう。本当にあっという間にナイフ1本で、美しい花になっていく。これが、私にとってのカービングの醍醐味なのである。

15kgのおばけカボチャにひまわり
もったいない!
 展示会にはもちろん、各地の収穫祭などに招かれ、カービングの実演をする機会がある。皆さまの目の前で、すいすいとスイカを大輪の花に仕上げていく。デモンストレーションとして楽しんでいただけていても、作品が出来上がると、お客さまから「これ、食べられるの?」と質問されることが多い。
「見て楽しんでいただくものです」と私。
「え〜!もったいない!」と声が上がる。
 もともと王宮で始まった。とてもとても優雅なものなのである…。700年前、高貴な方のために、スイカを彫り上げていた女官たちには、予想だにしない言葉であろう…。しかし、現代の日本。ましてやここは農産王国・北海道である。おいしく安全な作物を作ってくださる方々のお膝元だ。生粋のどさんこの私は、はるか昔のタイ王朝の女官たちを素早く裏切ることにした!?
「見て楽しんだ後は、こんな風にケーキみたいにして、切り分けて食べちゃいます」また、声が上がる。
ソープカービング クリスマスツリー
ソープカービング バラ一輪
「え〜!もったいない!」
「……」
 地域限定感は否めないが、とれたての素材の良さゆえの「もったいない」と、作品の美しさゆえの「もったいない」がフルーツ・ベジタブルカービングにはついて回る気がする今日このごろである。

食するために上達を!
 このような経緯から、私は教室の生徒さんたちには『食べられるように素早く仕上げる』ということを願い、日々レッスンに出向いている。道内各地と東北地方。大地を耕し、愛情込めて野菜や果物を作ってくださる方々と一緒にカービングを楽しむために。
 お母さんの肉じゃがに、人参のダリアが入っていたら食卓がどんな笑顔に包まれることだろう。そこでは、また、「食べるのもったいなぁい」と子どもたちの言葉が飛び交うはずだ。食べるための人参ではあるが、そこにカービングという技術をプラスすることで、まずは食材への興味を引き出すという、食育への入口となればうれしいかぎりである。
 遠い昔の、やんごとなきシャム王国の方々も、微笑んでくださる…!に違いない。
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