■ 1人舞台で、自分探しをしています
10年前から、「印象派」という1人舞台のパフォーマンス公演をしています。毎回、テーマを持って体を動かし、唄い、言葉と闘って、自分の中から湧いてくるエネルギーを身体全体で表現する。演劇というよりダンスパフォーマンスに近い感じですね。
19世紀、印象派の画家たちが、宮廷画家に抵抗してイーゼルを持って外に飛び出した、その姿にインスピレーションを得て、「印象派」と名付けたんですが、この舞台は私にとっては自分探しでもあるんです。何の基本もないまま俳優になり、いろいろな演出家の方と仕事をするうちに、自分の中でどう演じたらいいのか、混沌としてしまって。
そして、演劇という集団から離れたくなり、無謀にも1人で自分の演劇探しを始めた。それが「印象派」を始めるきっかけでした。
今年で7回目の公演になりますが、回を重ねてやっと自分のやりたい方向が見えてきた気がします。
自分の世界を表現する場を持つことで、ほかの仕事も楽しんでできるようになりましたし、思い切ってプールに飛び込める、そんな身体感覚を感じるようになりましたね。
■ 劇場が私にとっては闘いの場所
私が俳優になったのはほんのなりゆきからでした。私が歌手でデビューした当時、やっと日本にミュージカルが根付いてきて、少しでも歌を唄えればみんなミュージカルに誘われたんです。最初は軽い気持ちだったのですが、いざやってみるとこれが大変。歌も当時よく唄えないし、踊れない、芝居もできないの三重苦で、まるでヘレンケラーのよう(笑)。
ただでさえ不器用な私には、劇場がまるでサッカー場のような戦いの場所でした。それまでは、歌の勉強もろくにしていなかったので、舞台という恐いものとつきあうことで、必死に勉強させられました。学生時代に、これだけ勉強していたらもっとちがう人生になっていたかもしれない(笑)。
1番最初に出演した舞台は、「ニューオリンズからマーマレードが届いたよ」というオリジナルミュージカル。水森亜土さんがいらっしゃる劇団ですが、とても厳しい演出家がいらして、本読みの当日でないと台本を渡してくれない。でも、「マリさん、点は1つ、丸は2つ休む」って、先輩に基本から教えていただきました。
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印象派vol.7 アーティスト写真 |
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■ 好きな絵を見るように舞台を楽しんでほしい
そんな感じで俳優人生がスタートしたわけですから、今でも私の中には唄うことや演技すること踊ることは向いていないのかもしれない、日々その葛藤があるんです。
だから、「印象派」での私のテーマは、「絶望からの脱出」。葛藤から逃げ出したいという気持ちもあるし、自分の肉体や時間、空間と闘う場所でもあるんです。この舞台を通して、私自身すごく鍛えられ、強くなりましたね。
この舞台では、毎回ディテールを変えて、非日常の世界を創り出したいと思っています。花やリンゴなどの普段身のまわりで触れるものを使ったり、高野山の僧侶たちの読経に合わせて動いてみたり。歌もエネルギーのある曲をテキストに選んでいたらなぜか反戦歌ばかりになってしまって(笑)。
私自身の闘いということなんですが、観た方が反戦のメッセージとして受け取っても、それはそれでいいのかなと思っています。
日本では、まだ私のようなパフォーマンスは少ないらしく、よく何を表現しているのって聞かれるんですが、好きなように見てもらえばいい。例えば、好きな絵を探すような感覚で。「印象派」は私の思いこみで創っている舞台なので、好きになって下さった方は熱狂的ですが、ロンドンでは数人に帰られてしまったり(笑)。海外での公演では特に、その反応の差が顕著に現れます。でも私としては、同じ空間で何かエネルギーを共有できれば、それでOKなんです。
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印象派vol.6 舞台女優 |
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■ 俳優のすべてが生かされる声優の仕事
今、私が1番好きなのは、声優の仕事かな。最終的にみなさんに聞いていただくのは声だけですが、俳優に必要なことはすべて要求される。声の幅、強弱、テンポなど身体感覚がないとできない仕事なんですよ。そのすべてを自分の中で構成して、声に乗せる。演技が映らない分大変ですが、すごく勉強になります。でも、実は自分の声は堅くて、ずっと嫌いだったんです。時間をかけて、やっと好きな声に変えてきました。 一昨年に公開された、「千と千尋の神隠し」もとても面白い仕事でしたね。私の吹き込みは2日間だけで、ほんの端役だと思っていたので、映画館で見て、びっくりしました(笑)。
本番前、宮崎監督から1つだけ注文があって、「妖怪だと思わないで普通に銭湯を営んでいる、仕事熱心なおばさんでいて」と。それを聞いて、そうか普通にやればいいんだって、気持ちが楽になりました。宮崎監督は、細かいことはおっしゃらないで、俳優に伝えるツボを心得ていらっしゃると思います。とてもエモーショナルで、宮崎監督のような方は、欧米には多いですが、日本ではあまりお会いしていません。
■ ポーランドでは、俳優というだけで、とても尊敬されるんです
海外でも、よく演劇のワークショップに参加します。いろいろな俳優やミュージシャンたちが集まって、それぞれのエチュードを演じ合ったりするんですが、体を集中させたり開放させたりして、フィジカルな面とメンタルな面、その両方から表現することを確認していきます。ロンドンでは、ディレクターの要望で、近松文学のワークショップを開き、1週間ずっと心中してまし(笑)。
日本の演劇に対してはやはり伝統芸能への関心が高いですね。ワークショップで、歌舞伎を演じてほしいと言われ、戸惑うこともしばしば。歌舞伎ができるのなら、男になって日本でもやってるわよって(笑)。一部の人だけかもしれないけど、日本人なら誰でも、能や狂言もできると誤解されているようです。
演劇人に対する評価も、国によって実に様々。ポーランドでは、1番尊敬されるのが俳優で、次に弁護士か医者。俳優ならこんな国がいいなって思いましたね。ロンドンでは、もう20年ぐらい前にヒットミュージカルに出るというだけで、アメックスのゴールドカードを作ってもらった友人がいました。社会的にものすごく守られている。私もそのころは、ヨーロッパの俳優仲間がうらやましかった。中には、何年たっても同じトレンチコートを着ていたりする演劇人もいるけれど、それもまたかっこいいなって。
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印象派vol.7 アーティスト写真 |
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■ 言葉よりも身体感覚を大事に演じたい
日本では、演劇よりもテレビ文化で、なかなかオリジナリティのある優れた作品が生まれない気がします。オリジナルなものを創り出すのは、時間とエネルギーがいりますから。
もう時代にそぐわないなと思える舞台をいくつか観ることもありますが、私は「今」を表現したい。すでに終わっているものには興味がないんです。毎日、世界のあちこちで紛争が起こり、演劇でもニュースよりドキドキする舞台に関わりあいたいですね。大事なのは、今何を思って、何を表現するかということ。それが私のテーマでもあるんです。
だから、言葉よりも身体感覚を大事にしたいと思っています。唄うときも、演技をするときも、身体感覚がないと成立しないと思います。終末を迎えるまで、この身体感覚を探すことが仕事みたいなところもあると思うのですが、演じる側が誠実に取り組まないと、せっかく高いチケットを買って、時間をかけて観に来てくださるお客様に申し訳がないと思うんです。
私自身も、なるべく自分を高められるような仕事を選びたいと思っていますが、なにか好奇心で選ぶことが多いですね。知らないことを覗きたいという好奇心が原動力になっているんです。ときには、あの現場でアイドルに逢えるなんて、というミーハーな好奇心もありますけど(笑)。
今まででお気に入りの作品は、スティーブン・バーコフ演出・カフカの「変身」ですね。
彼は非常に厳しい俳優・ディレクターで、高度な身体感覚を要求するんです。イスを1つだけ与えられ「君の人生を演じてごらん」と。それから例えば、ミュージシャンにミルクの音を出してもらうときも、「それは朝飲むミルクか寝る前に飲むミルクか、その温度や量は?」と細かく要求をする。リハーサルでは真っ青になっていましたが、とても新鮮な舞台でしたね。
■ 何事も意識が大切
最近は、ダイエットや健康ブームで、だんだん身体感覚とかフィジカルな面が見直されているような気がします。体を動かすことで、より前向きな性格に変わってくるし体と心は1つにつながっているんでしょうね。
私にとっては、舞台はスポーツと同じなので、舞台の前はウォームアップし、終わったらクールダウンをして、いつも体をゼロにもどすように心がけています。常にベスト体重を保つために、食物もすべてカロリーを計算して摂っています。私の場合は1日1680カロリーが理想。ロケにも、お弁当を手作りして持っていったり、水や主食にもこだわりますね。でも、10日に1日は、チョコレートをいっぱい食べて自堕落な日を作る(笑)。
ストイックなだけでは長続きしませんね。そして年を重ねたら特に、無意識ではなく、食物も健康管理も意識して!が大事ですね。と言って、自分を叱咤激励しているんですけど(笑)。
(東京都渋谷区 夏木マリ事務所にて取材)