東京電力株式会社 執行役員 販売営業本部 副本部長
 (かたくら ももき)
  片倉 百樹さん
1968年、東京大学工学部都市工学科卒、東京電力入社。入社以来一貫してエネルギー営業部門に従事。家庭・都市・産業などあらゆる分野にむけたヒートポンプ・蓄熱システムの開発・普及に力を注ぐ。

【図1】化石燃料消費によるCO2排出量とCO2濃度

※世界のCO2総排出量(2002年)
出典:二酸化炭素情報分析センター(CDIAC、ORNL)-HP
はじめに
 京都議定書後の温暖化ガス削減の道筋を巡って開催された、バリ温暖化防止会議も閉幕しました。最大排出国の米国や、中国・インドといった国々の姿勢が注目を集めました。議論が先送りにされた感もありますが、逆に、それが一筋縄ではいかない問題の難しさも浮き彫りにしました。主要排出国の日本も、この課題に大きな努力を傾けていることは周知の通りです。

温暖化とヒートアイランド
 図1は、18世紀から現在までの、化石燃料など消費によるCO2排出量と濃度の推移です。経済成長に伴いCO2排出量と濃度が上がったことが分かります。その時期は、燃料革命で薪・炭からプロパン・灯油に熱源転換した時期でもあります。
 図2は、首都圏の年間の気温30度超延べ時間の地域分布です。夏、首都圏では、相模湾と鹿島灘からの卓越風が上空でぶつかり、練馬から熊谷にかけて酷暑地域を作り出すといわれています。気温30度超延べ時間は、1981年は、練馬や熊谷に200時間前後の地域がある程度ですが、1999年には、練馬から熊谷にかけ広い地域で400時間を超えるようになりました。
【図2】東京地域における30℃超延べ時間の広がり
 一方、自然的被覆(河川や樹木・草地)は1930年比で43.6%減り、地表の舗装面積は11倍、建築面積は3.2倍に増えました。気温上昇の原因は、自然の大きな空調装置である自然的被覆が減り、人工的被覆が増えたことと言われています。地球温暖化とヒートアイランドによりエネルギー消費はさらに増加することが懸念されます。

団地は都市の森
 図3は、首都圏のある団地近傍の衛星画像と地表面熱画像です。典型的な公団型団地ですが、周囲の住宅地に比べ敷地にゆとりがあり緑が豊かで、緑地や河川が残っていることが見てとれます。地表面熱画像を見ると、団地や緑地が地域のクールスポットになっていることがわかります。既存団地は、都市に残る緑地と同じ「都市の森」なのです。

森の機能とは
 それでは「都市の森」が果たす機能とは何でしょうか。
【図3】首都圏近郊団地の衛星画像と地表面熱画像
 図4は、夏昼間の新宿御苑を、普通のカメラとサーモカメラで撮ったものです。同じ気温でも、日なたと木陰では地表面温度が異なります。気温に加え、直達日射や物体の表面温度による赤外放射が、体感に影響を与え、その感覚に近いグローブ温度は、日なたで38度、木陰で33度。森の木が、直達日射の影響を緩和しているからです。
 さらに、植物は、気孔から蒸散して葉を冷やしているので日光を浴びても熱くなりません。また、光合成によって空気中の二酸化炭素を吸収します。
 森には、熱負荷である日射を緩和し、温暖化ガスのCO2を吸収する機能があるのです。

森のポテンシャルを持つ既存団地
 そう考えると、既存団地が、温暖化に対して有効な「都市の森」となるポテンシャルを秘めていることが分かります。団地再生においては、建物構造や設備の性能的劣化、居住者ニーズの社会的機能劣化に対する課題がすぐ浮かびますが、既存団地が長い時間をかけて獲得してきた価値とその継承についての議論は少ないように感じます。住民のコミュニティーもそうでしょうし、時間をかけて育った自然環境も、そのひとつでしょう。
 環境に配慮したサステイナブルな計画が、より求められていく中で、既存団地の自然環境ポテンシャルを活用することは必須になっていくと確信します。
【図4】夏昼間の新宿御苑のサーモカメラ画像

「緑と風の道」を活かした団地再生へ
 自然環境ポテンシャルを活かした計画とは、図5のようなものと考えます。既存団地の大きく育った木々を極力残し、地域のクールスポットである緑地や河川・海などをつないでいく。木陰で、駐車場やアスファルト舗装などの地表面の熱負荷発生源が減り、放射熱環境が改善する。改善した熱環境下で、緑地や河川からの風が乱されず、効果的に冷熱を分配していく。
 そのように熱環境が良好になると、住戸内でも機械に頼る必要が減る。また、機械もエネルギー効率の良い機器を導入し、エネルギー消費と熱発生を抑制し、CO2排出を減らしていく、それが、さらに環境の良化につながっていくという好循環を形成していく。そこで、登場するのがヒートポンプです。

ヒートポンプとは
 ポンプが水を低いところから高いところに汲み上げるように、熱を低いところから高いところに汲み上げるのが、ヒート(熱)ポンプです。ヒートポンプは、エアコンや冷蔵庫、洗濯乾燥機、エコキュート(CO2冷媒ヒートポンプの電気式給湯機)などに利用されている汎用化された技術です。
【図5】緑と風のつながり(グリーンチェーン)
【図6】エコキュートのしくみ
 お風呂を例に取ると、従来の燃焼式給湯器が、化石燃料を直接燃やして熱とし、お湯にするとしたら、エコキュート(図6)は、温暖化しつつある空気の熱を汲み上げ、集めてお湯にします。その効率が高いため、お湯をつくるのに必要なエネルギーが少なくて済むのです。エネルギーが少ないということは、発電所で使う化石燃料が少なくて済む。だからCO2排出量が減る。また、ヒートポンプは燃焼しないので、それ自身からはCO2は生じない。あわせてCO2排出量が減るということです。
 また、空気から熱を集めるので、ヒートアイランド化した都市を冷やす効果も期待できます。都心部で給湯器をエコキュートに置き換えた場合、エコキュートが稼動する夜から明け方にかけて、気温が0.6〜0.8度程低下するという試算もあります。

ヒートポンプは温暖化防止の切り札
 図7は、家庭部門のエネルギー消費の内訳です。トップランナー方式の導入により機器の高効率化が進む照明や家電製品に次いで、給湯や冷暖房が大きな比率を占めています。そこに、ヒートポンプを利用したエアコンやエコキュートを導入することにより、エネルギー削減が図られます。
 2004年度の日本のCO2排出量は約1億4400万トンでしたが、日本中の家庭やオフィスの給湯と冷暖房をすべてヒートポンプに変えると、約1億トンのCO2排出を削減できるという試算もあります。これは、2010年までに家庭やオフィスからのCO2排出量を減らすという政府の計画と、ほぼ同じ値です。まさに、ヒートポンプは温暖化防止の切り札です。

「都市の森」が広がる団地再生へ
【図7】家庭部門のエネルギー消費の内訳

出典:「家庭用エネルギー統計年報」2005年度(関東)
 既存団地の緑が、熱環境を緩和しCO2を吸収する大きなポテンシャルを持っていることがわかりました。ヒートポンプもまた、ヒートアイランド化した空気の熱を回収し、エネルギー消費を減らし、燃焼もせず、CO2排出を減らすことがご理解いただけたと思います。さらに、緑とヒートポンプ導入のシナジーにより、熱環境改善効果が高まるというシミュレーションもあります。
 その意味で、既存団地のもつ緑が「都市の(植物の)森」であり、ヒートポンプが「都市の(機械の)森」なのです。既存団地の緑とヒートポンプを組み合わせた団地再生で、上昇する熱と二酸化炭素を低減に向かわせる「都市の森」が広がっていくものと確信します。
 私たちは、最適なエネルギー利用のあり方をお客さまに提供する電力事業者として培ってきた技術・ノウハウをベースに、都市の環境という観点から、団地再生という分野においても、環境とエネルギーのあり方についてご提案できることがあると考えています。


団地再生研究会URL
www.danchisaisei.com
団地再生産業協議会
www.danchisaisei.org
団地再生まちづくり
建て替えずによみがえる団地・マンション・コミュニティ
編・著/ NPO団地再生研究会
合人社計画研究所
定価1,800円+税/水曜社