武庫川女子大学大学院生活環境学研究科生活環境学専攻
  (すずき ゆり)
  鈴木 優里さん
1983年静岡県生まれ。武庫川女子大学生活環境学科卒業。現、同大学大学院修士課程2年。現在、修士論文の提出に向けて日々奮闘中。

既存住戸。南側から撮影。柱やフローリングがペンキで塗られている。いかにも古めかしい印象。
押し入れと和室、壁の解体が終わったところ。押し入れの解体ではグラスウールが現れ、袋にまとめるのに苦労した。西側の壁には断熱材が張り付けてあるのが見える。

はじめに
 現在、日本各地で老朽化した団地の建て替え事業が行われています。ここで言う「老朽化」として、まず考えられることは、建物自体の老朽化ということでしょう。次に、水回りや電気容量など設備も「老朽化」してきます。それから、間取りなど、内部空間に関して、現在の居住者のライフスタイルとの間でのギャップが考えられます。これらの「老朽化」を改善するために現在、新しい建物への建て替えが行われているのです。
 しかし、この「老朽化」への対応策は建て替えだけなのでしょうか。
 今回の実験は、集合住宅の居住者が、それぞれの住戸を自らの手で変容させていくことで、より快適な生活環境を入手することが可能になると考え、専門家の手に頼らず、自らの手で住戸改修を行うことにより、現在のライフスタイルに合った形へと変容させることができることを示し、老朽化した団地を取り壊さずとも蘇らせる1つの方法を提示したものです。

自主改修実験の概要
 今回の自主改修実験は、建て替えのための取り壊しが決まっている、兵庫県尼崎市の西武庫団地で行いました。改修住戸は28平米の1DK。参加したのは、本学を含む5つの教育機関で、それぞれの学生が1住戸ずつ改修を行いました。
 現地見学を行った後、学生同士で話し合い、それぞれの改修住戸を決定しました。その後は各自で実測を行い、現況図面を作成し、間取りの検討を行っていきました。既存では、南側にはフローリングのダイニングキッチンスペースが、北側には畳の和室と押し入れという間取りですが、私たちはこれを南北ともにフローリングにし、中央に玄関から続く「土間」を通した間取りを計画しました。この「土間」は、通路としての機能だけでなく、双方の空間をつなぐものであり、「土間」を介して人が向かい合う憩いの空間としての役割も担っています。その点も考慮した上で「土間」は、女性でも無理せずまたげる程度かつ人が向かい合って座り、会話をするのに適した幅を現地で実際に体感しながら設定しました。また、既存住戸は南北の空間を壁と襖によって仕切っていましたが、これを空間としては1つとし、間に「土間」を挟むことで、緩やかに空間を仕切りました。

実際の作業
 私たちの大学が選んだ住戸は、3階の西端の住戸です。見晴らしは良いのですが、西日の影響なのか、ほかの住戸よりもカビが多く発生していました。そのため、まずは掃除から始めました。これが6月下旬のことです。
 そして、7月には住戸内部の解体作業をはじめました。畳をはがし、押し入れや壁、柱や敷居も自らの手で取り外しました。さらに、北側の和室もフローリングに張り替えるため、ほかの住戸のフローリングを再利用することにしました。そのため、フローリングはがしも行いました。私たちは女子大ということで男手がなく、力の必要な解体作業は非常に苦労しましたが、8月に入るころには、解体も終えることができました。
苦労したフローリングのヤスリがけ。サンダーを利用し、大まかに剥がした後は、手動でのヤスリがけ。気の遠くなるような作業を毎日みんなで繰り返した。
天井のセメント補修。これも毎日少しずつ行った。セメントはアルカリ性なので、手荒れ防止のためのビニール手袋が必需品だった。
壁仕上げ。施工時間が短いのでみんなで並んで珪藻土を塗った。コテで塗ると錆が出てしまうので注意が必要。
 次に、施工を開始しました。まず、既存の和室部分をフローリングにするため、根太を張りました。南側の既存フローリングと高さを合わせようとするのですが、土台が水平でないため、非常に苦労をしました。また、壁はすべて珪藻土仕上げとすることにしたので、壁や押し入れを取り外した跡にできた壁や天井の凹凸を平坦にするために、モルタルで補修しました。この作業では思いのほか、大量のモルタルを要しました。今回使用した砂・セメントの総重量は、約600キロにもなります。また、モルタルが天井には思うように張り付かず、何度も落ちてきてしまい、この作業も非常に苦労しました。
 それから、今回の改修で最も時間を要したと言っても過言ではないのが、フローリング塗料落としのヤスリがけです。既存のフローリングにはペンキが塗られていましたが、木肌を出した仕上げにしたかったので、私たちはそれらをすべてヤスリではがすことにしました。しかし、これが思いのほか、労力がかかり、明けても暮れてもヤスリがけの日々でした。ヤスリがけが終わったものは、ステイン塗料を塗り、木肌を出した仕上げとしました。この塗料を建具にも利用し、空間の統一感を演出しました。
 さらに、水回りですが、今回の住戸は浴室とトイレが一室になっていたので、浴槽が非常に狭く、洗い場がないような状態でした。そこで、浴槽を取り外し、シャワールームという形を提案しました。そのため、浴槽を取り外し、セメント補修をした後、スノコを敷くことにしました。当初、壁は既存の水色のタイルのままでよいと考えていましたが、居室との統一感を考慮し、既存タイルの上からベージュのモザイクタイルを張り付けました。
 そのほか、既存住戸の柱を框(かまち)として再利用することにしたので、鉋(かんな)がけも行いました。しかし、フローリング材も柱も経年により反り返っているため、新材を扱うようにはいかず、大変でした。木材の再利用は、予想以上に労力が必要なことが実感できました。また、収納兼ベッドスペースや間仕切り壁、浴室の扉も自分たちで製作しました。このあたりは、男性の助っ人に協力してもらいながら行った作業です。
 壁仕上げは珪藻土です。珪藻土を塗っていく作業は非常に楽しい作業でした。作業メンバーの多くが、「珪藻土を塗る作業が1番楽しかった」と話すほどです。室内が真っ白になると、今までの空間とは全く異なる印象になりました。その変化は、空間が蘇る瞬間を目の当たりにしたようなものでした。
 そして、「土間」を平坦にするため、モルタルを流しましたが、素人では思うように平坦にならないため、玉砂利を埋め込む仕上げにしました。ランダムに玉砂利を配置するのがなかなか難しく、また、楽しい作業でもありました。それから、屋外と屋内の空間をつなげることで、バルコニーを生活の一部として利用できると考え、市販のブロックを重ねて底上げし、スノコを敷き、住戸の床とバルコニーのレベルを合わせました。
 最後に、ペンキを塗り直したキッチンと吊り戸棚を設置し、手洗い器をコンパクトなものに取り替え、照明を取り付け、完成しました。

シンポジウムとオープンハウス
 今回の改修に関して、シンポジウムという形で建築関係者の方への公開を行った一方、オープンハウスという形で近隣住民の方々へも公開しました。シンポジウムでは、参加者に住戸を見学していただいた後、それぞれの住戸を学生がプレゼンテーションし、総合的に検討し投票してもらうという形で改修案の評価を頂きました。また、オープンハウスではアンケートに各住戸の印象や最も気に入った住戸といった回答欄を設け、それぞれの評価を頂きました。
 これらの結果より、私たちの提案は「団地は玄関が狭くて部屋に上がってもらうほどの仲ではないようなご近所付き合いの間柄でも、玄関から土間になっていると、靴を脱がずに中に入ってもらえるからご近所付き合いが広がりそう」など、異なる視点からの評価や、今後の参考になる意見をたくさん頂きました。5つの教育機関の学生が団地内の画一的な住戸をそれぞれに異なる空間に変容させたことで、より大きな印象を与えることができたのではないでしょうか。
竣工写真。照明により塗りムラのある壁に陰が現れる。見学者の方には「居酒屋みたいないい雰囲気ね」との言葉を頂いた。

今後に向けて
 今回の改修では、解体が前提となっている団地を利用したため、実際に居住実験を行うことはできませんでした。そのため、設備面の改善はほとんど行われていません。しかし、今回の実験は大変貴重な経験であり、今後に活かしていかない手はありません。そこで、今後は居住実験を行い、実際に生活することも可能な住戸改修実験を行うことができれば、さらに今回の実験が有意義なものとなるのではないかと思います。
 そのためには、今回はほとんど触れることがなかった設備面への提案も重要になります。今回の改修では、夏であったことと居住実験を前提としないことで、ガスの供給がありませんでした。しかし、実際に生活する場合を考えると、ガスを供給する、あるいは、オール電化にするなどといったことをしなければなりません。今後は、そういった点を踏まえ、もう一歩踏み込んだ実験を行っていく必要があるように感じます。


団地再生研究会URL
www.danchisaisei.com
団地再生産業協議会
www.danchisaisei.org
団地再生まちづくり
建て替えずによみがえる団地・マンション・コミュニティ
編・著/ NPO団地再生研究会
合人社計画研究所
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