Co.Lab代表取締役
 (はら だいすけ)
  原 大祐さん

1978年3月生まれ。青山学院大学経済学部経済学科卒。団地再生産業協議会事務局に従事。現在海o.Lab代表取締役 西湘をあそぶ会代表。

小田原の御幸の浜の夕暮れ。海を見ると癒される
小田原の朝市。相模湾は魚の種類が豊富
平賀敬美術館のお風呂。源泉かけ流しのお風呂が気持ちがいい

■西湘とは
 
「湘南」は皆さんご存知だと思う。相模川より東の茅ヶ崎・藤沢の地域のことで、サザンや江ノ島で有名なところだ。相模川より西、つまり平塚〜小田原あたりには「西湘」という名称がある。西湘バイパスというとちょっとは知っている人がいるのではないだろうか。
 僕が育った西湘は湘南から派手さを抜いて東京から遠くしたところと揶揄されるけど、それだけじゃあない。確かに地味でいわゆる田舎だけども、そこには西湘ならではの生活がある。今回は西湘流スローライフを紹介しながら団地再生の可能性について考えたいと思う。

■西湘の生活
 大磯はかつて別荘地として有名だったところ。東海道の宿場町であった大磯に軍医総監の松本順が日本で最初の海水浴場を開いたことで、がらっと町が変わる。海と山に囲まれたこの小さな町に岩崎、安田、三井といった財界人や伊藤博文、山縣有朋、陸奥宗光、大隈重信、西園寺公望、寺内正毅、原敬など政界人の自邸、別邸が立ち並んだ。何より有名なのは吉田茂である。大磯が気に入った吉田茂はここに移り住み、亡くなるまで大磯で過ごしている。大磯は、そんなかつての別荘地の佇まいを残した町なのである。
 もともとそんな町なので、せかせかとしてはいけない。散歩をしながら佇まいを楽しんだり、海を見ながらぼーっとするのがふさわしい。
 旧三井邸であった城山公園の東屋からは相模湾、伊豆半島と富士山を見渡すことができる。僕は友達と大磯銘菓の西行饅頭とお茶を買ってはここで海を見ながら過ごす。遠くの双子山に陽が沈んでいく。海が金色に光る。空が赤みを帯びて、紫に変わりやがて真っ暗になる。沈んじゃったなぁと呟くと、もう満天の星空だ。喫茶店が少ないということもあるかもしれないが、ファミリーレストランでだらだらするよりもよっぽど気持ちがいい。
 西湘はもちろん海の幸がおいしい。小田原の居酒屋「大学酒蔵」に行けば、生しらすやじんだ(まめ鯵)のから揚げを味わうことができるが、定期的に開かれている朝市に行けば自ら新鮮な魚を手に入れることができる。鯵、鰯、鯖などの青魚を中心に太刀魚やカマス、イカなどが並ぶ。スミヤキや白目鯛などの地元でしか見られない魚も売っている。
 僕は毎年朝市で仕入れたしこいわしでアンチョビを作っている。しこいわしはビニール袋いっぱいに入って200円くらい。朝のうちにさばいて塩をふり重石をする、それだけ。数ヶ月後にはとてもおいしいアンチョビになる。今年も7、8キロをつけた。瓶詰めにし、知人・友人に配るのはもう毎年の行事だ。
 もちろん朝市に行かずとも魚屋で地物の魚を買うことができる。買った魚は刺身にしたり干物にしたり。地物のカンパチの刺身もうまいけど、やっぱり鯵がうまい。作りたてのさつま揚げと豆腐を買ってくれば、取れたて作りたてを味わえる西湘の朝ご飯だ。
 今年はそば畑のオーナーになった。オーナーといっても種まきから草むしり、収穫に至るまで、全部の作業をしなければならない。8月の終わりにまいた種が11月には収穫をむかえる。そばの白い花がきれいだ。収穫したそばを粉に引き、友達とそば打ちを楽しむつもりだ。残ったそばは、そば茶にしたいと思っている。また今年5月にはお茶摘みに参加した。朝早く伸びた新芽を摘む。もちっと手にすいつくほどやわらかい。摘んだお茶はすぐに製茶する。飲むたびに新芽のさわやかな香りがする。自分で摘んだせいもあっておいしさもひとしおだ。
 畑仕事で汗を流したら、温泉に行く。なんといっても箱根が近い。箱根には平塚や大磯からでもすぐに行くことができる。小田原ならなおさらだ。僕はよく平賀敬美術館のお風呂に入る。井上馨や近衛文麿、犬養毅も利用していたお風呂でゆったりする。箱根のひんやりとした空気が風呂上りの体に実に気持ちがいい。疲れも吹っ飛ぶ至福のひとときである。

■スローライフの観点から地域のよさを保存・活用する
 しかし西湘も日本のほかの地域と変わらず、同じ問題を抱えている。理由は都内への通勤が不便だからだろう。高齢化し労働人口は減っている。もちろん税収も落ちる。高齢化により休耕田が増えている。商店街はシャッター通りだ。
 しかし逆の見方をすれば、東京から“たかだか”1時間ちょっとのところにこんなに豊かなスローライフを送れる場所がある。そして一方でそれを求める人は多い。
 もしかしたら地域の問題を解決するのはよその人たちかもしれない。彼らの求める生活はこの地域の問題の解決と接点があるかもしれないと思う。
 重要なのは、田舎暮らしやスローライフを求める人たちを上手に取り込む街づくりだ。休耕田を活用し、趣きある町並みを保存し、地域の特徴ある商店を守っていく。地域のよさを見つめ、積極的に保存・活用することが必要だ。
手摘み・無農薬のお茶を飲める幸せ
大磯 旧安田邸の公開。大磯にはお屋敷がいっぱい

■二地域居住という提案―団地の活用
 もうひとつ重要なのはスローライフを実現する具体的な提案だ。僕はスローライフのために頑張って郊外から通勤しましょう、なんて生活を提案しようとは思っていない。それでは平日の通勤に疲れてしまってスローライフを楽しめない。僕は都市部に安いセカンドハウスを借りて、週末田舎でスローライフを楽しめるような生活を提案したいと思っている。現在都市部の不動産価格は高いので、この方がローン負担も少ない。
 もしくはすでに定年されていて、都市部に住宅をもっている方は体が動く間は賃料の取れる都市部の住宅を貸して安い賃料の田舎でスローライフを満喫し、後に都市部に戻るといったスタイルも考えられる。
 最近は別荘の利用権付のマンションが都内で販売されていると聞く。今後都市部と田舎の二地域居住だったり、田舎への一定期間の移住といった今までとは違った形でスローライフを楽しむ人たちが多くなるのではないかと思っている。
 そこで団地の活用には2通りの受け皿を期待したい。市街地団地は安いセカンドハウスへ、郊外団地はスローライフ用の住まいへの活用だ。活用へはどちらも都市部と田舎の異なるライフスタイルをセットで提案できるかが鍵となる。

■生活を楽しむという観点で団地再生を
 人間ライフスタイルをいきなり変えることは難しい。地縁のない所へ住まいをかまえることはなおさら難しいだろう。実験段階だが「西湘の生活」というブログとウェブサイトを立ち上げ、西湘の生活をレポートしながら、どんな地域でどんな暮らしが送れるのかを伝えている。
 同時に地域の人たちと「西湘をあそぶ会」を設立した。これはあそびを通して具体的に西湘に来てもらうこと、西湘の良さを認知してもらうこと、そして何よりよその人と地域の人との交流が生まれることでよその人が地域に「知り合い」を多く作る機会になればと思っている。例えば、週末農業をしようと思ったときに単に畑を借りるのではつまらない。知り合いがいれば機具を借りたりアドバイスをもらえる。その方が楽しい。つまりこの会は西湘で楽しむための人・物・情報をトータルで提供することを目的としているのだ。
 団地再生に今後求められることは団地の再生によって建物の改修といったハードの解決だけでなく、生活を楽しむ提案がいかにできるかということと、そのために必要な人や情報の提供といったソフト面の充実が非常に重要になるのではないだろうか。
西湘の生活 http://www.seishonoseikatsu.jp


団地再生研究会URL
www.danchisaisei.com
団地再生産業協議会
www.danchisaisei.org
団地再生まちづくり
建て替えずによみがえる団地・マンション・コミュニティ
編・著/ NPO団地再生研究会
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