京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科准教授
(すずき かつひこ)
鈴木 克彦さん
1953年静岡県生まれ。大阪大学工学部建築工学科卒業、同大学院修了。工学博士。一級建築士。日本建築学会奨励賞、日本マンション学会研究奨励賞、日本建築協会「建築と社会」賞ほか。
写真(1)ロンドンの都心にある建物緑化された集合住宅
写真(2)住民参加により改修された団地(グラスゴー)
■危機的な地球環境
今年の夏は猛暑が話題になりました。とりわけ、緑地が少ないと言われている大阪の夏は暑かったようで、温暖化問題は他都市よりも深刻化しています。この原因は、都心部の気温が郊外よりも高温化する「ヒートアイランド現象」と言われています。局地的な高濃度大気汚染や集中豪雨なども、ヒートアイランド現象が影響しているとの報告もあります。映画でも、アル・ゴア前米副大統領による講演の模様を紹介したドキュメンタリー「不都合な真実」がアカデミー賞2部門を受賞し話題になりました。
このため、大都市では、一定規模以上の建物には屋上緑化などを義務付ける施策が実施されていますが、最近ではマンションでも環境に配慮された事例が見られるようになっています。ロンドンでは、太陽熱などの自然エネルギーを最大限利用し、化石燃料を一切使わないというコンセプトで建設された集合住宅も誕生していますが、英国では自然環境が豊かな住宅が古くから見られます。写真(1)はロンドンの都心にある集合住宅です。1979年に建設されたものですが、ガーデニングが大好きな英国人が考えた建物緑化の先駆けとも言える住宅で、30年近く経過した今でも、繁華街にありながら緑あふれる住環境が保持されています。
■社会の崩壊も深刻化
一方で、現代社会を見つめてみると、格差社会が進み、失業率の悪化も深刻で、ホームレスやニートはますます増加する一方です。社会の治安も悪化し、これまでの常識からは想像もできないような非行・犯罪も多発しています。これも都市環境の変化や教育環境、家族関係の変質などが一因として挙げられています。さらに、近い将来発生すると予測されている大地震による甚大な被害想定も、深刻な状況が報告されています。まだまだ、問題を取り上げたらキリがありませんが、都市環境に潜むこれらのさまざまな問題を一気に解決する方策はないものでしょうか。
写真(3)低層住宅に建て替えられている高層住宅団地(バーミンガム)
写真(4)住民を交えたワークショップの風景
■持続可能な社会とは
こうしたさまざまな社会問題が深刻化する中、最近「サスティナビリティ(持続可能性)」という新しい規範が注目され始めました。サスティナビリティとは一言で言えば「現在そして来るべき世代の人々の生活水準をより良くすること」ですが、EU諸国ではすでに、サスティナビリティを軸にした政策が積極的に展開され、さまざまな分野において生活環境の改善や再生が図られています。活力と雇用力のある経済、豊かな生活や公平さが満足される社会、歴史的環境や都市の生活文化を享受できる住環境、そして省エネルギーや循環的な資源を活用して自然環境と共生しうる社会。こうしたサスティナビリティを実現する社会を持続可能な社会と言っています。これまでの消費と廃棄の産業構造が招いた環境破壊の結果を反省し、これからは持続可能な社会の実現に向けて、既存社会の再構築を考えていかなければなりません。
■持続可能な社会を実現する団地再生
持続可能な社会の構築をめざした政策が推進されている中、欧米諸国ではコミュニティと地球環境の健全性を促進するための団地再生が活発に展開されています。(1)エネルギー効率、廃棄物の最少化、資源問題、(2)コミュニティと社会福祉、(3)経済的繁栄という3つの重要な領域に並列的に取り組むことによって、現在だけでなく、将来の世代に至るまで、より質の高い生活を確保しようとしているのです。
写真(5)老朽化した住戸を改修している実験現場
特に、住宅先進国と言われる英国においては、国家、自治体、企業、市民NPOなどのさまざまな組織がパートナーシップを組んで団地再生を推進しています。写真(2)はグラスゴーの団地で、1960年代に建設された住宅を改修したプロジェクトです。改修の設計段階で居住者の積極的な参加があり、住宅の設備やデザインについて建築家とともに検討した結果、以前からある緑を活用したり、外断熱、サンルームなどを新たに設けた低エネルギー設計が実現し、経済効率に優れた集合住宅を生み出しています。
しかし、建物を大切にしている英国といっても、居住環境が悪く、犯罪が多発したりコミュニティが崩壊したと診断された地区では、比較的新しい建物でも建て替えが積極的に進められています。写真(3)は1960年代に建てられた高層集合住宅を取り壊し、新たに低層集合住宅に建て替えているニュータウンです。高層住宅では持続可能なコミュニティが維持できないと判断されたためですが、コミュニティ再生では雇用促進にも配慮し、地元住民のために多くの職業訓練事業が再生計画の中に含まれています。
■団地再生にチャレンジ
わが国でも、高度成長期に大量に建設された住宅団地の老朽化は深刻な社会問題となっています。その老朽化した団地を再生するための取り組みは各方面で進められつつありますが、私どもの研究室でも住民を交えたワークショップを開催したり、再生提案コンペにチャレンジして団地再生に取り組んでいます。ワークショップは、専門家のアドバイスを受けながら住民同士が意見を出し合って住まいの将来を考える方法で、素晴らしいアイデアが生まれることが多々あります。
持続型社会の診断グラフ〈SEAM〉。円の中心部の緑色の部分が多いほど、持続可能な社会と評価できます。
また、老朽化した集合住宅を実際に再生する活動も行っています。住宅団地の再生には、循環型社会を見据えて建築資材のリデュース、リユース、リサイクルを促進することも求められています。それを実現するために、UR都市再生機構(旧住宅都市整備公団)が開発した高経年の団地住戸を学生の手により改修を行う実験を行っています。
この実験には5つの教育機関が参加し各々テーマを持って行っていますが、私どもの研究室では資材のリユースを前提とした改修を進めています。このような再生の発案は、同じように老朽化した団地に住む住民を対象にアンケート調査を行った結果、慣れ親しんだ古い材料を再利用することに対してニーズが多かったことが背景にあります。
■持続可能な団地再生に向けて
老朽化した団地を再生する方法には建て替えだけでなく、いろいろな手段が考えられます。その際には、さまざまな状況を判断して最適な方法を選択していくことがポイントになりますが、大事なことは団地の良い所は継承し、悪い所のみを改善するという姿勢です。こうしたことに配慮しない建て替えは、建物は新しくなっても今までの住まいの良い面を失いかねません。
写真(6)250年もの長い間住み続けている集合住宅(バース)
そこで、自分たちの団地の現状をしっかり見極めることが大切になってきます。そのため、私どもの研究室ではお住まいの住環境を簡単に自己診断できるシステムを開発中です。お住まいの団地を、社会、経済、資源、環境の4つの評価領域ごとに持続型社会の達成度を診断するもので、それぞれの領域には具体的な評価項目を設けています。その結果をグラフィカルに表現することによって、当該環境を持続型社会として総合的に評価した場合、どのような点が優れ、どのような点を改善する必要があるか一目で理解することができます。
良好な住環境と豊かなコミュニティを保持し、子どもたちも高齢者も健康で安心して住み続けられ、楽しい社会生活と文化的な暮らしができる社会が持続可能な社会です。さあ、あなたのお住まいも持続可能な社会に向けて、どのような点が課題としてあるのか診断してみませんか?
団地再生研究会URL
www.danchisaisei.com
団地再生産業協議会
www.danchisaisei.org
団地再生まちづくり
建て替えずによみがえる団地・マンション・コミュニティ
編・著/
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所
定価1,800円+税/水曜社
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