関西学院大学総合政策学部教授
 (かどの ゆきひろ)
  角野 幸博さん

関西学院大学総合政策学部教授。専門は都市計画、住環境計画。工学博士、一級建築士。主な著書は『郊外の20世紀』、『近代日本の郊外住宅地』ほか。

戸建て住宅団地の高齢化
 団地再生というと、多くの人は公団住宅(今は機構住宅)や公営住宅などの公的集合住宅団地の、補修や住み替え、建て替えなどを思い浮かべるのではないだろうか。実際、再生事業や建て替え事業が話題になるのは、そうした団地に限られている。
 民間分譲住宅の場合は、分譲が終わると事業者は撤退してしまい、後の維持管理は購入者に任せられる。とりわけ戸建て住宅団地の場合は、「住み替え双六」の上がりにたどり着いた成功者のイメージがあるからか、あまり再生対象として話題にはなってこなかった。
 ところが今、郊外の戸建て住宅地では、高齢化と空家化が進み、さまざまな問題が起きている。開発者ができるだけ早く売りさばこうとし、同じような世代が同じ時期に入居してきた結果、高齢化も一気に進み、高齢化率が30%を超える住宅団地も現れた。これらの団地が世代交代の時期を迎えているのだが、多くの団地ではなかなか新しい人が入ってこない。
D団地の町並み。昭和40年代初期にまちびらきした、閑静な住宅街である
建物が取り壊され、空地化した宅地。駐車場に転用されている宅地もある
閉鎖された幼稚園の記憶を残す記念碑。幼稚園の敷地は分割され、新しい住宅が建っている
幹線道路沿いの空店舗。空店舗の1つを使って、オープンカフェの実験が計画されている

町が引き継がれる条件
 ある時代のニーズによって開発された住宅団地が次の時代に引き継がれるためには、ニーズの変化に合わせながらスムーズに世代交代しなければならない。世代交代といっても、子ども家族がそのまま住み続けるとは限らない。相続をしてもそこに住み続ける世帯数は限りがあり、新しい住民をいかに受け入れるかが大きな課題となる。
 郊外戸建て住宅団地は、どうすれば再生しうるのか、筆者らが行った兵庫県川西地域での調査をふまえて、思うところを述べてみよう。

団地内資源の活用
 一般的に言ってニュータウンは、普通の市街地に比べて緑が豊かで、公共公益施設も充実している。ただしこれらは、団地内の計画人口に合わせて決められており、人口構成の変化や団地外の開発によって、さまざまな不適合が生じる。こうしたニュータウン内の空ストックや空地・空家を、再生のための種地あるいは住民の交流活動の場として活用することはできないだろうか。
 例えば川西市D団地では、団地内の公園で花づくりの組織を立ち上げた。組織が確立されれば、行政からの管理委託業務を受注する可能性もある。花壇だけでなく、ビオトープとして再生させる方法もある。自然と触れ合う場づくりを通じて、子どもたちに環境学習の機会を与えることができる。
 空地、空家の庭などを、ガーデニングやファーミングの場として活用し、魅力ある住宅地景観を生み出すこともできる。花緑に関するNPOによる園芸教室や、ガーデニング愛好者が参加するオープンガーデンイベントも有効だと思う。オープンガーデンとは、個人の庭を一般に公開するイベントであり、国内でも一部の住宅地で実験的に実施されている。
 地域福祉の視点からはさまざまなニーズがある。活用されていない公共施設や空家を使って、多世代の交流サロンや地域交流拠点とする。D団地では、空家をNPOが買い上げ、小規模多機能型ホームとして活用している。また空店舗を使ったオープンカフェも計画されている。
 実現するためには、受け皿となる信頼できる組織づくりが不可欠である。また建物や土地を提供する側の理解も求められ、これを仲介する組織や活用の細かいルールづくりを始めなければならない。

団地外の資源活用と交流
 団地の周囲には自然環境や旧集落があり、自然景観や生態系、生活文化が維持されていることが多い。これらは、団地の魅力向上と再生のための重要な資源となる。例えば周辺の川や里山などの自然環境は、レクリエーションや環境教育の場となる。農地なども環境資源として評価すべきである。都市的な生活を送りつつ近くの農村集落との交流を行うことが、固有のライフスタイルとなる可能性がある。
 退職者が増え生活行動が地元指向になると、これらへの関心が高まるに違いない。具体的には、食育プログラムの開発、地産地消の実践、伝統行事への参加、伝統文化の体験などが考えられる。もちろん旧集落側にとってもメリットは大きいはずだ。

コミュニティ活動の活性化
 元気な団地は、コミュニティ活動が活発である。地域福祉と地域防犯は、高齢化が進む多くの郊外住宅地では、大多数の住民が関心を持つテーマである。これに子育て世帯への支援体制を加えて、小学校区程度の規模ごとに、地域福祉・まちづくりの拠点をつくる。そこにはさまざまな活動団体が互いに意見交換し、行政との接点ともなる場を設ける。防犯についても、住民による日常的見守り活動に加え、犯罪発生などの際の連絡通報体制ができればよい。
 活動主体となるのは、自治会をベースとする活動と、特定の趣味や活動を目的に形成される地域型NPOだろうか。さらにこれらの活動を支援する自治体の施策や、中間支援組織のサポートが重要な役割を果たす。

コミュニティビジネス
 住民のさまざまなニーズへの対応策として、コミュニティビジネスの導入を提案する専門家は多い。高齢者の増加と専業主婦の減少は、生活支援サービスの需要を高める。高齢者や障害者の移送・外出介助サービス、住宅・庭園の管理サービス、子育て支援サービスなどは、新しい居住者を集める牽引力ともなる。
 コミュニティビジネスの導入のためにも、中間支援組織による支援が望まれる。
既存の住宅を使って開設された保育所
花づくりの市民団体がお世話をする花壇
自治会主催の夏の盆踊り。団地で育った子どもたちが孫を連れて帰ってくる

住み替えの支援体制
 新しい世代の入居を促すためには、分譲、賃貸の両方を含めた中古住宅市場の中で、団地の魅力を正確に伝える必要がある。しかし、コミュニティ活動や団地周辺の歴史・文化的魅力などは、仲介業者にはあまり理解されていない。
 そこで住み替え促進のための1つの提案をしてみよう。地元自治体、コミュニティ団体、NPO、仲介業者、住宅情報メディアなどが協働して、再生を視野に入れた新規居住者の確保のための仕組みづくりである。
 まず住み替え支援の中核となるセンターをつくり、地域に根ざした住宅情報の収集、分析、提供とともに、仲介業者やリフォーム業者、現地案内人などを紹介する。物件情報だけでなく、地域活動団体の紹介、団地およびその周辺情報の収集と提供、沿線イメージ増進のための連携事業の企画・運営なども行う。
 地元のコミュニティや活動団体は、直接中古住宅の売買に関わることはないが、市民活動の実績など、地域のきめ細かな情報を提供する。また転入希望者の依頼に応じて、生活者の視点からのアドバイスを行うとともに、団地内外の魅力や地域への思いを伝える。
 仲介業者は、センターから住宅地情報を得ることにより、地域密着型のきめ細かな業務が可能になる。また可能な範囲でセンターへ売主・買主の情報提供を行い、同時にセンターを訪れた転入希望者の紹介を受ける。

社会実験としての「まち博覧会」
 このような住み替え支援システムが有効かどうかを判断するための社会実験として、「まち博覧会」を開催してはどうか。
 実施主体は、ニュータウン内各自治会が中心となり、可能であれば同じ鉄道沿線など隣接団地自治会も含んだ共同開催とする。住宅メーカー、デベロッパー、不動産仲介業者、住宅設備・情報関連業界、造園業などの協賛を得る。デベロッパーおよび不動産仲介業者には、実務レベルでの事務局機能をお願いする。後援団体として、住宅情報誌、交通事業者、地元自治体、国土交通省などの協力を求める。住宅情報誌には広報面での協力を、交通事業者には広報活動および移動手段確保の協力を依頼する。
 時期は、夏祭りあるいは春秋の運動会など、さまざまなコミュニティイベントが実施される時期に合わせる。約1ヶ月間週末のみの開催とし、町並みコンクール、コミュニティ活動団体の発表会、周辺ハイキング、団地内空地での農産物、特産品販売、中古住宅フェアなどのイベントを組み合わせる。
 一見大掛かりに感じられるかもしれないが、自治会や行政、仲介業者、電鉄などがすでに個別に行っているイベントを協調開催すればよいのではないだろうか。
 こうした提案内容は、もちろん集合住宅団地の再生にも使えると思う。団地の中にはまちびらき後30〜40年を経過する例も増えてくる。こうした団地の記念イベントとしても可能性があるのではないかと考えるのだが、いかがだろうか。


団地再生研究会URL
www.danchisaisei.com
団地再生産業協議会
www.danchisaisei.org
団地再生まちづくり
建て替えずによみがえる団地・マンション・コミュニティ
編・著/ NPO団地再生研究会
合人社計画研究所
定価1,800円+税/水曜社