連載コーナー
本音のエッセイ

2026年8月掲載

信じたいものだけ信じたい

内田 麻理香さん/東京大学 特任准教授、科学コミュニケーター

内田 麻理香さん/東京大学 特任准教授、科学コミュニケーター
博士(学際情報学)。専門は科学コミュニケーション。特に、科学コミュニケーターとしての経験を踏まえ、理論と実践を架橋する研究に取り組んでいる。著書に『科学コミュニケーションの再構築』(勁草書房)、『面白すぎる天才科学者たち』(講談社)など。

以前、ベランダで育てるためのハーブの寄せ植えキットをネットで購入した。「バジルはパスタに、そしてミントはお茶に使おう」などとわくわくしながら買ったのだが、しばらくすると不安になった。ハーブ類のように繁殖力の強い植物を同じ鉢に植えて問題はないのか。そこで、ハーブの寄せ植えについてネットで検索して調べ始めることにした。

検索結果には、「寄せ植えしても問題ない」という記事もあれば、「組み合わせには注意が必要」というものもあった。しかし、私は両者の記事をバランス良く読むのではなく、「寄せ植えは大丈夫」という記事ばかりを選ぶという調べ方をしていた。要は、自分がハーブの寄せ植えキットを既に買ってしまったことに対して、安心できる内容を探していたのだ。

認知心理学では、人間のこのような傾向を「確証バイアス」と呼ぶ。自分の信じたいことを支持する情報を求めると同時に、それに反する情報を退けてしまう思考のクセである。この認知バイアスは、思い込みの強い人だけが持ち合わせているものではなく、人間誰しもこのような傾向を持つ。私は、寄せ植えについて調べている途中で「これは確証バイアスそのものだ」と気がついたのではあるが、知識として持っていたとしても、この思考のクセからは逃れられないと言える。

例えば、何か新しい分野について学びたいと思い、初心者向けのテキストを手に取ったとしよう。それが、その分野で標準的なものであれば基本的に問題はない。しかし、そのテキストが「異端」の内容であった場合、その後も異端の説に沿った内容を選び取り、ますます異端の説に傾倒していく可能性が生じる。初心者だからこそ、そのテキストが標準か異端かは判断しがたい。認知バイアスは独学の難しさも生むのである。

最近は生成AIを利用する機会も増えた。生成AIは、使用者の意見に過剰に同調する「シコファンシー」と呼ばれる傾向をもつ。つまり、私たちにこびるのである。人間だけでも確証バイアスという問題があるのに、生成AIのこびへつらいが加わるとなれば、さらに深刻になる。客観的になるつもりの情報収集が、単に自分の思い込みを強化するための行動になってしまうかもしれない。

陰謀論の話になると、多くの人は「自分にはあり得ない」と考えがちである。しかし、陰謀論を支持する思考のメカニズムにも、確証バイアスは大きく関連している。つまり、ハーブの寄せ植えを調べていたときの私と遠い話ではない。人間は確証バイアスから逃れることはできない。しかし、確証バイアスについての知識は、自分を振り返る小さなきっかけにはなり得るだろう。

(無断転載禁ず)

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