団地再生 -団地再生を考える-
団地再生シリーズ106弾
集住のゆくえ
—仙台・石巻の311前夜とこれから
東北文化学園大学准教授・建築家
大沼 正寛(おおぬま まさひろ)さん
1972年生まれ。東北大大学院修了、博士(工学)。東北文化学園大学准教授/建築家。伝統木造などの建築設計や環境資産の保存活用を通して、東北の風土醸成に寄与する建築デザインを探究。
仙台市街の住宅事情と震災直後の風景
![]() |
| 【写真1】仙台南町通りのビルの外壁崩落状況 |
震災復旧・復興に、各地からご協力いただいていることに、東北の人間として、まずは御礼申し上げたい。さて、筆者の住む仙台も被災都市の1つであるが、中心市街は内陸にあり、復旧はかなり進んだ。それどころか2011年下半期は、未体験の空気に包まれていた。人も車も多い。電気は以前のように不足なく使える。繁華街国分町も大盛況という。これ自体は大歓迎であるが、東西50キロメートルにも及ぶ広域仙台は、東に被災地を抱えてもいる。その痛み、そして北東へ、南へ続く痛みの連続を、一瞬ながら忘れてしまうような、あるいは忘れたいかのような、そういう刹那的な盛況とも映る。その複雑な風景が、未体験なのである。
そんな仙台の「マチナカ」周辺では(地方都市は駅前や繁華街が概ね一かたまりなのでこう呼ぶ)、ここ10年来、マンション・ラッシュが続いていた。支店経済都市ゆえ、人口の流出入が多い。地権者が土地を維持しにくくなったこともあろう。そこにタワーマンションがようやく流行り始めていた。凹凸のスカイラインは町並みとして是か非か。しかし購入者は(見下ろす)眺望を価値と感じてもいる。仙台城の天守台跡を超えてしまった物件もあり、異をとなえる古老もいるが、声はかすむ。仙台は、中央からの風に極めて従順なのである。結果としての凹凸景観よりも、異論をぶつける元気な市民が少ないことのほうに、筆者は問題を感じているが…。
311を思い起こすと、電気は早く復旧したが、水道は遅く、ガスにいたっては1カ月も要した。毎日風呂に入れるというのは、なんとありがたいことだったのか。この間、ガソリン行列に早朝から並び、被災地にも出かけたが、市内でも外壁の崩落したビルにたびたび出くわした(写真1)。市内をみるのは、被災状況の観察もあるが、主には食糧の買い出しだ。地割れもそこここにあった。仕事柄、直後の2週間は学生の安否確認、次いで被害・復興関連の会議などが続き、授業再開は5月まで遅れた。あれからもう1年近くがたとうとしている。
仙台のまちづくりと集住の意義
![]() |
| 【写真2】仙台駅東アーバンスコップ風景(2006) |
仙台旧市街の片平‐花壇・大手町地区は、さとう宗幸「青葉城恋唄」で知られる広瀬川を望み、対岸が仙台城跡や瑞鳳殿(伊達政宗の霊廟)という、自然と歴史に恵まれた立地にある。川の周辺は「広瀬川の清流を守る条例」にもとづき、建築は20メートルの高度規制があるので、その境界のすぐ外側は、川辺の眺望が保証されたマンションが林立する。その結果、花壇・大手町地区は、中高層マンションに見下ろされる格好になる。もし、この地区を含めて、仙台駅周辺から広瀬川までが、もう少しつながりのある空間であったなら、都市の魅力はもっと増すのではないだろうか。
さて、この地区には1つの課題があった。市街地から観光名所の瑞鳳殿前まで大型観光バスを乗り入れ、そのまま南へ抜けるという、戦後すぐの都市計画道路・向山常盤丁線である。土地区画整理事業による、いわゆる塩漬けの買収用地が長期間、まちの一角を占めるという問題だ。これを計画した当時の市長、技師らの戦災復興主導には定評があるが、もちろんあらゆる計画は満点ということはない。時代が変わったいま、効果や問題点を洗い直してもいい。そして見直しは現実になった。
![]() |
| 【写真3】タワーマンションとまちなか農園藤坂 |
花壇・大手町地区の「まちなか農園藤坂」は、この都市計画道路用地を活かしたまちづくりの一例である。この土地は2004年ごろから、部分的にポケットパーク(花壇や休憩場)に利用されたが、やがて、近くで始まる地下鉄東西線工事(2006年本格着工)の資材置場となる恐れが出てきた。通学路を往来する子どもと、大型ダンプとの接触が怖い。そこで、今野町内会長を中核とするまちづくりグループが、2006年ごろから、より積極的に地域で活用するプログラムを考えはじめた。そのころ、仙台市のシンクタンク・仙台都市総合研究機構では、「杜の都に田園資源を活かす研究」の一環として、仙台駅の近傍で小さな畑をつくって遊ぶ「アーバンスコップ」なる実践が進んでいた(写真2)。今野会長らはこれに注目。住民、知人はもとより、仙台市をはじめ、県内・市内の高校・大学からの協力を得て、実現に漕ぎ着ける。名前は、かつて「仙台七坂」の1つといわれた藤坂(かつては「藤ヶ坂」)にちなんだ。ゆるやかに開かれた町内会組織は、「花壇・大手町地区グランドデザイン作成委員会」なる組織に発展し、地区の子供会や社会福祉協議会、市民センターなどとも連携を取り、いまや仙台屈指の地域づくりの先例となっている。大手町に新築されたタワーマンションも、はじめは先述の凹凸景観の違和感を指摘されることもあったが、入居した住人はすでに、地域づくりの同志である。タワーマンションの脇に畑がある風景も、新しい杜の都らしさに数えられるかもしれない(写真3)。地区住民でもある筆者はといえば、農園区画や外構のデザイン、既存の木杭に固定した収納板塀(写真4)の学生建設ワークショップなど、コミュニティ・アーキテクト(地域建築家)的な下支えに奔走した。そしてその後、市の財政状況もあって、道路計画の見直しが現実となったのである。
![]() |
| 【写真4】まちなか農園藤坂の収納板塀 |
ところで、ここで培ったコミュニティが、震災時に役に立った。何となしに声をかけ合い、マンションの上階に住むお年寄りに声をかけ、降りるのを手伝う。夕方には、地元の食堂が一肌脱いで、会長らと炊き出しを始める。手伝う人々はすぐに集まる。綿密な防災訓練をしてきた一方、災害が大きすぎてその通りには必ずしも進まなかったけれども、結果として集団としての対応能力がついてきていた。「集住」とは、集まって住むことで、知恵が生まれる人間生活のまとまりを指すのであって、単に密度の高さをいうものではない。
仙台の集住空間は、その形態だけみれば、いまだに戸建て/マンションの2種類ばかりが主流だ。これは未成熟といわざるを得ないし、古い公団住宅や昔からの賃貸住宅をもう少しうまく再生できたら、とも思う。しかし、まずは箱からでなく、日常のつながりのある暮らしと、非常時の助け合いから始めるべきだろう。集住都市のゆくえは、その先にある。
東北のムラと集住空間の再生―石巻市雄勝町地区から
![]() |
| 【写真5】大津波でも残った雄勝硯伝統産業会館新館 |
![]() |
| 【写真6】石巻市雄勝町名振地区の 被災状況 |
![]() |
| 【写真7】石巻市雄勝町名振地区高台 畑地付近の地形模型 |
多様な農山漁村で構成される東北地方。そもそも、この地方にはいったい、いくつのムラがあったのだろうか。明治の大合併前、明治14年「郡区町村一覧」によれば、中核都市を示す「区」は仙台1カ所のみで、あとは約1200の「町」と約6000の「村」で構成されていた。前者がかつての市街地、後者はいわゆる農山漁村と考えればよいだろう。東北6県で、町場が多かったのは、北前船で繁栄した山形である。次いで宮城、秋田、青森、福島と続き、岩手には642の村しかなかった。
宮城には、約300町700村が存したが、とりわけ広域合併した現石巻市は、リアス式海岸の沿岸部から平坦な海岸・港、内陸農村部、そして市街まで、ほぼ全てを有する大変な地域である。小漁村だけで少なくとも58あるが、そのおよそ3分の1にあたる区域は、旧雄勝町に属していた。雄勝町は、昭和16年まで十五浜村と呼ばれ、浜辺の小漁村が20カ所ほど続いていた。硯石となる玄晶石を産出することで知られ、明治後期から昭和初期には、屋根に用いる天然スレート材が製造され、栄えた歴史がある。その中心部、雄勝硯伝統産業会館新館は、津波を考慮したスレート葺きのタワービルとして計画された。今回の津波でも、大きな損壊なく残り、復興シンボルとしての修復も検討されている(設計=伊藤邦明、松本純一郎、2001/筆者は基本設計参画、写真5)。5月末、震災後の建物調査に訪れた当時の設計チーム一行は、先述の約20カ所の最北に位置する名振地区を訪ねてみた(写真6)。話を聞けば、高台にあった地区民の畑地を供出し合うことで、新たな居住計画用地に役立てる準備が進んでいた。ただし建築計画となるとプロの手が要る。そこで、一行はその後も度々現地を訪れ、簡易測量や模型製作を行う一方(写真7)、地区のリーダーも仙台や東京、あるいは中越地震の復興例を視察し、議論を重ねてきた。もちろん課題は山積しており、とくに資金を含む事業計画は、まだ序の口にある。
とはいえ、前述の都市コミュニティとは別の「集住の知恵」がある。それは日常における競争性でもあるし、緊急防災における運命共同性でもあり、その地縁・生産組織は高度で多面的である。それらの再生なくして、わが国の集住の明日はみえるはずがない。それを軽んじて都市部の復興を優先しても、おそらくは食べていけないだろう。山積する日常業務を乗り越え、少しでも現地に協力できればと考えている。
団地再生まちづくり2
よみがえるコミュニティと住環境
編著
団地再生産業協議会
NPO団地再生研究会
合人社計画研究所
定価1,995円(税込)/水曜社
団地再生・まちづくり実践講座①
~サステナブル時代の住環境づくり
プロジェクトの進め方~
編集発行
明治大学リバティアカデミー
定価777円(税込)
団地再生研究会URL http://www.tok2.com/home/danchisaisei/
団地再生支援協会 http://www.danchisaisei.org/
















