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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ183弾

人と緑のつながりで元気なまちづくり
〜「みどりの再生」で多様なライフスケープを生みだす〜

祐乗坊 進さん

ゆう環境デザイン計画 代表取締役
祐乗坊 進さん

1949年生まれ。東京農業大学、ベルリン工科大学卒業。環境デザイナー。本業の傍ら、炭焼きを通じ、人とみどりのつながりにチャレンジしている。


団地再生の血となる「ふるさとのDNA」

 多摩ニュータウンに住み始めて33年。幼少期を過ごした国立より長い時間をここで過ごしている。しかし、国立のまちを歩くと、長く住んでいる多摩ニュータウンより、ここが自分の故郷だと強く感じる。それは、子ども時代に体験したさまざまな思い出が幼少期の時間軸の中で幾重にも重なり自分の原風景となっているからだろう。国立の土地と強くつながっている記憶である。

 文芸評論家の奥野健男は『文学における原風景』の中で、原風景を「7、8歳ころまでの父母や家の中や遊び場や友達などによって無意識のうちに形成され、深層意識の中に固着する、いわば魂の故郷のようなもの」と書き記している。また、島崎藤村は生まれ育った馬籠への思いを「血につながるふるさと 心につながるふるさと 言葉につながるふるさと」(島崎藤村のことば)と力強い言葉で綴っている。ふるさとは、魂の故郷であり血や心につながるほど強い存在なのだ。私はそのような原風景を「ふるさとのDNA」と呼んでいる。一人一人のアイデンティティーにつながる、心安まる暮らしの原点である。団地再生では、この「ふるさとのDNA」をいかに醸成させていくかという視点を忘れてはならない。

縦割り行政で対応できない「みどりの再生」

多摩ニュータウンのみどりの基盤である多摩丘陵(南尾根)の「よこやま道」散策マップ(多摩の自然とまちづくりの会作成)
多摩ニュータウンのみどりの基盤である多摩丘陵(南尾根)の「よこやま道」散策マップ(多摩の自然とまちづくりの会作成)

 多摩ニュータウンは時間の経過とともにさまざまな課題が顕在化している。そのひとつが「みどりの再生」である。多摩ニュータウンの「緑とオープンスペース」は住区面積30%以上の確保を目標に、公園緑地率19.5%・緑被率37.4%(平成8年3月見込み)と高水準のみどりが確保されている。このみどり豊かな環境が、初めて訪れる人にガーデンシティとしての好印象を与えている。しかし、ニュータウン建設当時に植えられた木々は大きく成長し、植栽密度が高かったこともあり、みどりの維持管理費用の負担が大きな行政課題となっている。団地でも同じような課題を抱えている。

 多摩ニュータウンの中核をなす多摩市では、そのような現状を背景に「愛でるみどりから関わるみどりへ」を基本理念とする「多摩市みどりのルネッサンス」(平成25年)を作成し取り組みを始めた。しかし、残念ながら計画内容は従前の行政計画の枠を超えたものではない。市民とみどりのつながりはすでに多様に展開されており、みどりの存在価値も高まってきている。市民はすでに行政の枠を超えてみどりと親しんでおり、いま求められているのは身近なみどりの存在価値を多面的に評価しフォローアップしていくビジョンである。それが次世代を見据えた「みどりの再生」へのロードマップにつながる。

 都市のみどりを取りまく社会情勢もこの数年で大きく変化した。平成27年4月に施行された「都市農業振興基本法」では、市街化区域内の農地が都市農業振興のための農地として再評価。平成29年6月に「都市緑地法等の一部を改正する法律」が施行され、市街化区域内の農地を「緑地」として位置づけ、都市公園の再生・活性化など、みどりのあり方への新たな指針が示された。都市のみどりの存在意義はますます多様化しており、「みどりの再生」は従前の縦割り行政では対応しきれない状況になっている。

人とみどりのつながりを総合的にマネジメントする組織づくり

多様なライフスケープを生み出す公園
多様なライフスケープを生み出す公園
みどりの文化拠点となっているグリーンライブセンター
みどりの文化拠点となっているグリーンライブセンター
炭焼きに使われる剪定枝等の地域資源
炭焼きに使われる剪定枝等の地域資源
防災用備蓄燃料「たまニュー炭」として地域還元
防災用備蓄燃料「たまニュー炭」として地域還元

 「みどりの再生」とは、持続性のあるみどりの活用と維持管理である。多摩ニュータウンの豊かなみどりをフィールドに、人とみどりの多様なつながりが見えるライフスケープ(暮らしの風景)の醸成が肝要である。そのためには、地域の人とみどりとのつながりを総合的にマネジメントしていく仕組みや組織の構築が急務である。

 実は多摩ニュータウンにはその機能を担える可能性を持った施設が既にある。都市緑化植物園として平成2年に開設された「多摩市立グリーンライブセンター」と平成13年にビジターセンターとして開設された「八王子市長池公園自然館」である。2つの施設は成り立ちや開設目的は異なるが、公園をフィールドとしたさまざまな活動を提供し、地域のみどりの実態や多様なスキルを持った人材情報を蓄積している。あまり時間をかけずにみどりのマネジメント組織へステップアップできる可能性を持った施設である。特に、私が関わったグリーンライブセンター構想・計画では、みどりを庁内横断的に取り組む体制づくりやみどりに関わる民間活動団体とのネットワーク構築、みどりの情報キーステーション設立など、みどりを総合的にマネジメントする仕組みづくりを提案している。是非構想の原点にフィードバックし実現させたい。

みどりを地域資源として活用する

 多摩ニュータウンで30年余り「炭焼き活動」などみどりに関わる活動をしており、その立場から提言したい。

 1つは、地域の植栽管理から発生する剪定枝等を地域資源として活用することである。市内で発生する剪定枝等は行政内では廃棄物扱いで、一部堆肥等に使われているものの、多くは有効利用されていない。

 多摩市の公園緑地から発生する剪定枝等は減少傾向にあるが現在年間約207トン(平成28年度)。その他、街路樹や団地など住宅地内の植栽からも相当量発生する。また、多摩ニュータウン3市で運営するごみ焼却場には、データは少し古いが年間約6000トンほどの剪定枝等が持ち込まれている。これら植物系バイオマスは、有用な地域資源としてのポテンシャルを持っている。費用対効果を考慮すると選択肢は限られるかもしれないが、みどりのビジョンの旗振り役としても検討の余地はある。たとえ小さな循環の輪であっても、人とみどりとの新たなつながりが見えるというのは、ふるさとへの愛着につながる。私もささやかながら公園の剪定枝等を炭にし、防災用備蓄燃料などとして地域に還元している。炭と炭焼きが地域の人とみどりの新たなつながりを広げている。

次世代を担う子どもの「遊び環境再生」

自然とふれあえる子どもの遊び環境
自然とふれあえる子どもの遊び環境

 もう1つは、子どもたちがワクワクする外遊びの環境を取り戻していくことである。五感を刺激する自然は子どもの成長に不可欠である。身近な自然との体験が多いほど豊かな自分史を積み重ねることができ、創造力豊かな人間に育つと信じている。身近な自然とふれあう機会が増え、遊びの自由度を許容でき、子どもたちのコミュニケーションが活性化する遊び環境の再生は、ふるさとづくりのためにも急務である。

 再生とは熟成に向けた更新のプロセスであり、再生により人とみどりとの関わりの時間軸を消してはならない。このような「みどりの再生」の取り組みが実現していけば、多様なライフスケープが生まれ、一人一人の「ふるさとのDNA」も自ずと増殖する。これからも、みどりとつながる元気で暮らしやすいガーデンシティをめざして活動を続けていく。

団地再生まちづくり3

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団地再生・まちづくりプロジェクトの本質

編著
 団地再生支援協会
 NPO団地再生研究会
 合人社計画研究所

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団地再生まちづくり4

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進むサステナブルな団地・まちづくり

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団地再生支援協会 http://www.danchisaisei.org/