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団地再生 -団地再生を考える-

団地再生シリーズ181弾

モビリティから見る団地の暮らし
ヒトの動き、モノの移動と“共助”

澤田 誠二さん

団地再生支援協会副会長
澤田 誠二さん

1942年生まれ。東京大学建築学科卒。日本、ドイツで建築設計と研究開発に従事。元清水建設、明治大学勤務。スケルトン住宅、モビリティ研究。


 クルマの快適さを捨て、ゼロ・エネルギーに徹するなど、サステナブル社会の生活の厳しさが語られる。たしかにクルマが売れなくなって久しい。ならばシェアすれば間に合うのか?

 これに電動化、自動化などの革新の“波”が加わると、ヒトの移動にモノの輸送を含めた“モビリティ”は、どう変わるのか?クオリティオブライフ(生活の質)を維持しつつ、効率の向上はどう進められるのか?

電動アシスト自転車普及の季節

子育て世代支援の電動アシスト自転車
子育て世代支援の電動アシスト自転車

 数カ月ほど前のこと、郊外団地の知人から連絡があった。1階の階段周りに、電動自転車と子ども用自転車が溢れ出したという。これは、今までの後期高齢者に代わって、子育て世代がどっと入居したためで、季節の風物詩だそうだ。

 子育て世代にとって、子どもの移動手段は重要だ。買い物、保育園・小学校の送り迎えから日常のお付き合いまで、移動手段と経路は多岐にわたる。特にこの知人の住む多摩丘陵には坂道が多い。子育て世代にとっては電動アシスト自転車ならずいぶん楽なのだ。秋の天気の良い日は、子どもを乗せた格好のよいママさんたちでショッピングセンターはにぎわう。

 現在の団地ができた40年前と今とでは、クルマのにぎわいに変化が見られる。当時は、駐車場の増設となると、団地を二分するほどの騒ぎが繰り返されたものだ。それが20年ほどたつと、駐車場需要も少なくなって、それに代わってアシスト自転車ブームというわけだ。

 そんな様子を見て、後期高齢者たちは顔をしかめる。自分たちの住む時代ではなくなったと目を背けているわけにはいかない。

クルマ社会をつくってきた高齢者

 ニュータウンや住宅団地を作ってきた人たちの集まりがあった。50年も前の“クルマ社会”をデザインし、実現してきた人たちだ。その結果、彼らの多くは大抵70代後半、クルマなしでは生活できない日々を過ごしてきた。

 こうして見ると、電動アシスト自転車を買う世代が、彼らに似た高齢者層を形成するのもそれほど先ではない。

 人は誰でも身体が衰え、運動能力も低下する。それなら欠けた能力を補って、クルマのある生活をするのも可能だ。ロボットによる生活支援もある。

「高齢社会と都市のモビリティ」という本

ヒトの動き、モノの移動をまとめ、暮らしを支える「モビリティ」とする
ヒトの動き、モノの移動をまとめ、暮らしを支える「モビリティ」とする

 15年前に“モビリティ”をテーマにした本を作った。

 帯文に「モビリティとは…歩く、自転車で行く、バスに乗る、路面電車で行く、車で行く、バス停、パーキング、駐輪場、一休みするベンチ」とある。

 この本では“人の移動・モノの輸送”を“モビリティ”としてまとめて捉え、駅前広場やバス停などのあり方も含めて考えることにし、老人や子ども連れや障害者のことも同等に扱っている。

 本にまとめられた15年前に考えたことが、今の目の前の高齢社会時代の住宅団地を考える視点を示している。中でも“団塊の世代に豊かな明日はあるのか”と問いかけ、高齢社会における費用負担の問題にも焦点を当てていて、15年後の現在でも役に立つ本だ。

拡大する“都市空間”

地上3階、地下2階の大空間に鉄道、歩道、エスカレーターが交錯する(ベルリン中央駅)
地上3階、地下2階の大空間に鉄道、歩道、エスカレーターが交錯する(ベルリン中央駅)

 高層ビルに挟まれたスペースに屋根がかかり、その大空間にエスカレーターが走るような都市づくりが盛んになった。戦後のコンクリート造、中層アパートの歴史を継ぐ1980年代の超高層ビルブームの後のことで、東京、大阪などの大都市圏の出来事だ。そんな“垂直の都市づくり”から“都市まるごと”づくりの時代になった。

 これに歴史的建物なども取り込んだ“建築再生”プロジェクトが広まるようになり、まちづくりは多様化した。

進化と統合が進む、移動・輸送の技術・システム

クルマ世界のイノベーション
クルマ世界のイノベーション

 こうした“人の移動”に“モノの輸送”を加えてモビリティ技術を振り返ると、この間にさまざまな進歩があった。一般に、自動車、バス、電車では台車があって車輪の上に載っている。従来はレールとの摩擦から駆動力を得て進むが、新たに登場したリニアモーター地下鉄には、駆動用車輪がなく、モーターのコイルを敷いたレールの間に発生する磁力により駆動する。台車にモーターがなく、車両の高さも低くできるから、トンネルも小さくなる。

 また、エレベーターといえばロープで吊る方式が普通だが、リニアモーターを利用するロープレス方式のエレベーターも登場している。キャビンはエレベーターシャフトに吸い付いて動くので、吊りロープ荷重の影響を受けず理論的にはビルの高さに制限はない。

 その間に、鉄道だけでなくクルマの駆動エネルギーも電力にまとまり、発電・送電・蓄電のシステムも整備が進んだ。ICT(情報通信技術)の進歩も著しく、モビリティ(移動・輸送)分野でも、“集団”と“個体”の移動や、“行き先制御”など“移動の流れの制御”が容易になっている。自動運転など駆動装置と制御システムとの高度な統合が進んでいる。

  昨年秋のモーターショーは“自動車産業は3つの「波」に襲われる”とメディアが取り上げるほどイノベーションに溢れていた。マイカーからカーシェアへの転換はICTの進化に押されてさらに勢いづき、運転の自動化は、個別に試行されてきた技術がブランドごとに統合の段階に入ってきた。新しいクルマによるサステナブルな暮らしを予感させていた。

サステナブル社会のアーバン・モビリティ

“水上交通”も重要なアーバン・モビリティ(ベルリン、シュプレー川の水上バスターミナル)
“水上交通”も重要なアーバン・モビリティ(ベルリン、シュプレー川の水上バスターミナル)

 モビリティのクオリティとは、目的地に早く到達でき、乗り換えがスムーズで、移動の途中で多様な都市活動に触れられるということだろう。

 人やモノの移動や運搬では、道路やそれを結ぶ広場(結節点・ターミナル)からネットワークをつくる必要がある。駅や鉄道基地を合わせたインフラストラクチャーを整備し、車両やクルマを運行する。こうした施設は、人の移動に役立つだけでなく“人の集まる特別な場所”だから都市と一体化してデザインし、そうしたモビリティの進化が、都市に新たな魅力を加えることを強調したい。

 一口にアーバン・モビリティと言っても、利用する空間、駆動の技術、サービスの方式などがさまざまである。都市内の人やモノの移動のためのアーバン・モビリティと都市と都市をつなぐモビリティでは、そのインフラやサービス方式にも違いがあり、変化が速い。

 サステナブル社会、言い換えれば持続可能な社会では、これらのモビリティの、インフラ・ハードのコストと負担、サービスの運営管理およびメンテナンスを合わせて、その都市コミュニティの満足できる条件で実現することになる。

 電動アシスト自転車の普及は、“私”と“公共”つまり“人力”と“電力”が“共助”する、分かりやすい事例である。サステナブル社会は、利用者感覚として成熟し、一般化を迎えるだろう。

団地再生まちづくり3

団地再生まちづくり3
団地再生・まちづくりプロジェクトの本質

編著
 団地再生支援協会
 NPO団地再生研究会
 合人社計画研究所

定価1,900円(税別)/水曜社



団地再生まちづくり4

団地再生まちづくり4
進むサステナブルな団地・まちづくり

編著
 団地再生支援協会
 NPO団地再生研究会
 合人社計画研究所

定価1,900円(税別)/水曜社


団地再生支援協会 http://www.danchisaisei.org/