榮高・預金返還請求事件控訴審判決について




本年8月31日の本控訴審判決は金融・商事判例1075号や判例時報1684号などに判決文全文が紹介されました。詳しくはこれらを参照してください。
別に主文のみ掲載
この事件は平成4年11月マンション管理会社の(株)榮高が破産宣告を受け、この榮高が管理をしていたマンションの積立金に当たる定期預金が銀行の担保に取られていたためにほとんど失われるということに端を発しています。訴訟は、榮高の破産管財人と都市銀行3行に対して起こしたもので、今回の控訴審判決は、その初めてのものです。 
一審判決では全て銀行側が勝訴し、マンション側の主張がことごとく棄却されました。これに対し、今回の控訴審判決では、事実認定(判断枠組み)、法律判断を通じて管理組合側の主張が全面的に認められました。



弁護士 安福 謙二さん(52)
昭和53年弁護士登録(16096)
47年東京大学経済学部卒、
50年司法試験合格、
53年司法修習終了(30期)


1、3行の都市銀行は、榮高が管理していたマンションの管理費、修繕積立金等を原資とした定期預金を、榮高の親会社である豊榮土地開発(株)への融資の担保の一部としていました。そして、豊榮、榮高の破産によりいずれも銀行側に相殺されて喪失。そこで、榮高の破産管財人が、定期預金が豊榮の借入金の預金担保として設定されたのは、これらの預金の本来の趣旨(信託)に反し、また各管理組合の承諾がなく、公序良俗違反であるから、相殺の無効を主張して、3銀行に預金の解約と払戻しを求めて訴えを提起した事件の一つです。この事件に6マンション管理組合が破産管財人と3銀行それぞれに対し、定期預金は自己に帰属することの確認と、各預金の払戻しを求めて独立当事者参加(注:甲乙間に係属中の民事訴訟の結果により、丙の権利が侵害されるか、訴訟の目的に丙の権利があると思われる場合に、丙が当事者としてその訴訟に参加すること)とした事件です。
2、榮高管理のうち14のマンションは、榮高が破産するまでいわゆる管理組合がなく、管理規約の上で榮高が管理者とされていました。この管理者は区分所有法上に定められた管理組合の代表者です。榮高に任せっきりであったのです。これに対し18マンションは、榮高の経営の行き詰まりを知り、定期預金証書や、預金に見合う現金の返還を受けていました。管理組合のなかったマンションの区分所有者は破産手続きになって初めて事実関係を知ったのですが、その定期預金全てを管財人の管理下におかれ、しかもその多くは預金担保の設定がなされていて相殺されてしまったのです。
自主管理を余儀なくされたばかりか、手元資金はない、事情が判らない、ごみや故障の対応に追われるなど、マンションの生活は混乱の渦の中に巻き込まれたのです。



裁判の最大の争点は、誰が預金者かということです。判決は、本件預金の原資が、マンションの管理委託費の一部であることなどは認めたのですが、預金の管理方法は全て管理会社に一任され、預金証書、銀行届出印鑑を榮高が管理し、管理費等の出納だけでなくその保管をも併せて一括して榮高に委託する契約である。また、金銭は本来、価値を表象するもので個性がなく特定性を持たないとの特性を有し占有者が即所有者である。…として、本件預金は榮高に帰属する。従って銀行の相殺は認められるとの結論でした。
マンション側の主張は全部否定されました。



預金原資が区分所有者から支払われた管理費等の金であることを認めながら、管理会社としての榮高の行為を強調し、マンション名が付記されている預金まで榮高の独自の預金であるとした判決は、到底納得できるものではありません。管理業務の委任の本来の趣旨(善管注意義務)に反する背信的行為であることは明らかですし、銀行側もこれらの事情を十分に知りうる立場にあったはずです。
(学者からも厳しい批判がなされました。判例評論464号(判例時報1609号)大阪大学平田健治教授、金融法務事情1556号7頁(1999年9月5日号)南山大学中舎寛樹教授)



控訴審判決の認めた事実関係は、管理組合側の主張を全て認めたものでした。そしてマンション側の全面勝訴でした。ここで裁判所が認めた事実、すなわち預金等の資金管理についての実態は、今後の管理のあり方を問う重要な意味内容がありました。それは、マンションごとに専門の預金口座があり、該当口座でそのマンション以外の入出金がなく、その資金で定期預金が作られかつ会社とマンションとの資金・財産が明確に分離され管理されていたということが決め手になったと思います。



いずれにしても長く厳しい訴訟でした。幸いに勝訴できて、この裁判に協力してくれたマンションの各理事者の方と喜びを共にできたことが何よりうれしいことですが、管財人やこの管財人を監督する破産裁判所の理解と公正な姿勢がなければ到底勝つことができなかった事件であり、感謝しています。裁判は証拠により勝負がつきます。管財人が所持していた厖大な榮高社内の財務記録が訴訟の場に提出されたことが大変助かりました。通常の場合であっても管理組合が書類を取得、管理することの難しさを考えるとなおさらです。
他方、この判決を得た今になって管理会社の榮高が、いかに各マンションの資産であるその預金をきちんと管理していたかを知る思いです。管理として当たり前のことのようですが、現実にある管理会社の中には、マンションの財産である資金・預金を、管理会社のそれや、他のマンションのそれと分別して預金管理しているところばかりではないからです。その意味でこの判決が語りかけるものは大きいと思います。今後この判決の意味を吟味し、マンション管理のあり方に生かして欲しいと願っています。



管理組合のマンション管理会社に求めるべき管理方法や管理技術について、例えば、管理費等の徴収方法(収納代行等を含め方法が適切か)やその管理のあり方(どこまで明示的に区別した管理か)について、改めて考えてみるべき要素が多いということです。
区分所有法第28条は「管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。」と言っています。管理会社が管理組合から管理の委託を受けるのもまた委任です。民法は委任につき善管注意義務(644条)を定め、その具体的には報告義務(645条)、引渡義務(646条)等が規定されています。平田教授は、「受任者自身の財産と委任者から預かった財産を可及的に分別しておくことは、すでに善管注意義務に含まれていると解される。」(前掲判例評論464号)と言われており、また、道垣内弘人東京大学助教授は、「委任者が催告したときから受任者は遅滞に陥ると解され、そして期限のない債務の性質として、受任者は委任者からの催告に備えて、いつでも引き渡し・移転ができるように準備しておかねばならないと解するならば、受任者は事実上、分別管理義務を負う。」(道垣内弘人「信託法理と私法体系」152頁)と言われています。この視点で改めて榮高における管理費徴収に始まる本件定期預金の扱い方を見ると、この分別管理の原則に従っていたと評価することができるものであり、それ故にこそ控訴審判決においてマンション側が勝訴できたのだと理解することができると思います。
以上のように本判決は今後各マンション管理に携わる管理会社に求める管理のあり方を示しているということができると思います。
管理組合から見れば、マンション名義の預金の存在をどのように確認していくか、例えば銀行の残高証明書の提出などにとどまらず、管理会社の経理処理、その決算内容にまで注意した分別管理のあり方をチェックしていくことが必要になると思います。管理会社が扱う金額は、管理会社の規模によっては信用組合はおろか信用金庫の扱高よりはるかに大きいところがあります。しかも、管理会社が行う業務は、単に管理費等の徴収やその出納にとどまらず、マンションにおける日々の生活を支え、マンションの不動産としての価値を維持し、あるいは高めるためのあらゆる作業や助言指導、並びにその実行があります。大げさに言えば、その社会的役割は単なる金融機関とは比べものにならない極めて重いものがあります。国民生活、国民経済にも影響を与える業務です。しかしそれに見合う業務を充分に果たしている管理会社はどの程度あるのでしょうか。それ以前にそれだけの自覚が管理会社にあるでしょうか、あるいは管理会社に対する社会的評価が充分でしょうか。根本的にマンション管理のあり方が問われているということではないかと思うのです。

以 上


本件訴訟を共にした弁護士仲間と

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