マーケティングプランナー
今渕 恵子
 私たち一家はとにかく、鳥や動物が大好きで、近所はもとより、アフリカから、北海道まで、1年中バードウォッチングやアニマルウォッチングに出かけている。息子が3才のころ、近所の公園にいたカモたちにえらく興味を持ったのがきっかけで、もともと山歩きが好きだった私たち夫婦もこの世界の楽しさにどっぷりと浸かっている。このごろは鳥だけでなく、リスや、ムササビ、キツネなど哺乳類の観察にもはまってしまった。

 最初のころは、親がいろいろ計画を立てたり、教えたりだったけれど、息子ももうすぐ11才。今では親の方が連れて行かれたり、教えられたりだ。親と子、という、タテの関係ではなく、同じ楽しみを共有する仲間、というのは、とても楽しい。
 だが、鳥や動物を観察するということは、楽しいことばかりではない。
今渕 恵子(いまぶちけいこ)プロフィール
コピーライター・マーケティングプランナー
バイオブロック工法初級指導者
今渕事務所代表
 出版社勤務を経て独立。女性コピーライターをネットワークしている。エコロジカルな視点に立ったマーケティングプランニングを企業や組織に提案も行っている。現在は、東京のおんぼろ借家と八ヶ岳の山小屋を行ったり来たりしている。著書には「女性がわからなくなったオジサマたちへ」(電通)「童話物語」(童話館)がある。
 今、日本山岳会の「高尾の森づくりの会」で、東京周辺での「バイオブロック工法」を実験中です。興味のある方は、今渕までご連絡ください。
 ■連絡先
  今渕事務所03-3465-7205
  E-mail:ima@hh.iij4u.or.jp
知れば知るほど、つらい現実も見えてくる。フクロウたちは、ヒナを育てるための木のウロ(内部が空洞になっている所)が探せない。ウロができるほどの大木はもうほとんどないからだ。ムササビも、巣となるウロがない。かろうじて、大木の残る神社などに暮らしているものも多いが、周りの開発が進むと、極端に狭いエリアで孤立してしまう。もう、恋の相手が見つからないのだ。森林伐採の進んだ九州では、もう何年もニホンリスの生息が確認されていない。ヒグマ、ツキノワグマ、イノシシ、カモシカ、ニホンザル、ホンシュウジカが、畑や植林地を荒らしては「駆除」されるのも、本来彼らが暮らしてきた豊かな森が失われてしまったからだ。
 戦後、私たちは高度成長の中で、日本の豊かな自然を作りだしてきた広葉樹の森を伐採し、「経済」のためにスギ、ヒノキなどの針葉樹ばかりの森に作り替えてしまった。そして今、その針葉樹林の経済的価値は下がり、手入れもままならないままに、荒れ果てた森が多い。そんな森に、生き物たちはほとんど暮らせない。
 動物や鳥が大好きな息子にしてみれば、将来は真っ暗だ。まだ見たことのない、ツキノワグマも、絶滅してしまうかもしれない。「どうしたらいいんだろう。ねえ、僕たちも木を植えようよ」と、いつもいう。
 とはいっても、いったい、どうしたらいいのだ!



 そんなこんなで、あがいているさなか、何気なく見ていたテレビ番組を通じて出会ったのが、「カミネッコン」だ。TBSのテレビ番組や、朝日新聞などでも紹介されていたので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれない。
 正確にいえば、北海道大学名誉教授の東三郎先生が考案された、バイオブロック工法による植樹法だ。さっそく取材に出かけ、結局自分も指導者の資格を取ることにした。

   簡単に説明すると、



●「カミネッコン」と名付けられた再生紙段ボールの型枠を組み立てて、新聞紙、チラシなどをぬらして詰める。
●できあがったポットに、苗を植える。
●しばらく養生した苗を地面に直接置く。その際、穴を掘って埋めてはいけない。


 それだけだ。ポットごと置くだけなので、穴を掘って移植する方法に比べて、苗の根を傷める恐れが少ない。ポットの中で守られながら育った根はやがて、自力で大地に根付いていく。また、苗がしっかり育つまでポットが守ってくれるから、乾燥や草などに負けずに育つ。ポットは、やがて風化して土に戻る。ポットの組み立ては自宅のテーブルでも簡単にできるし、苗作りはベランダや小さな庭でも十分できる。そして、何より、子どもでも、お年寄りでも、誰でも、いつでもできるということが、おもしろい。

北海道でのカミネッコンを使った植樹の実例。まん中に成長は遅いが、長く生きる木を植える。周りには成長の早いヤナギ類などを置く。早く大きくなった木が、風よけになり、まん中の木を守ってくれる。まん中の木が大きくなるころ、周りの木は、もう命を全うしている。
 ハイキングしながらドングリを拾って、それで苗を育てたらどうだろう。そして、いつか、その苗を森に返せたら、どんなにいいだろう。公園で拾ったドングリの苗を育てて、ベランダに、小さな雑木林を創るのもいい。屋上庭園だってできるし、小さなエントランススペースに木を植えてもいい。成長の早い木を選べば、ほんの数年で、花が咲き、実がなり、やがて鳥がやってくる。小さな生態系が育っていく様子を自分たちで見ることができる。
 マンションで小さな森を創ることだってできるかもしれない。なにしろ、型枠も再生段ボールなら、中に詰めるのも、家庭の中から出る新聞紙などの古紙だ。そして、その古紙をまた森へと返すこともできる。リサイクル、といえば、究極のリサイクルだ。
 でも、何より大切なことは、街に暮らす私たちが、毎日の生活の中で、種が芽を出し、そして育っていく姿を楽しむことではないだろうか。子どものいる家庭なら、大人が、当たり前のこととして、生き物を育む姿を子どもたちに見せることではないだろうか。そんな環境に子どもたちを育てることが、やがて、ほんとうに豊かな森を育てることにつながるのではないだろうか。今、ほんの少しずつだが、息子や夫と種を拾い、苗を育て、森に苗を「置いて」いる。私たちの育てた木々に鳥やリスたちがやってくることを願いながら。
 豊かな森が滅びることで、一緒に滅びてしまうのは、動物や鳥ばかりではない。
 私たちヒトもまた、ずっとずっと、豊かな森に育まれてきたことを忘れてはいけないと思う。

2002年3月掲載