今の私たちの生活の中で手に入るほとんどのものは「商品」ですね。商品であれば買ってしまえば、消費するだけなのですが、マンションを含めて建物はちょっと様子が違うようです。
 マンションを含め、大企業が供給する団地も、建築家の設計する家も、全てそれぞれ条件の異なる土地に1棟ずつ建てる『現場生産』という前近代的ともいえる方式です。もし、建築が「商品」であれば、土地にポンと置くだけで工事を終えることができ、後は消費するだけですが、たとえプレハブであっても建築はどうもそうではなさそうです。敷地の形も、水道や排水の位置といった条件もそれぞれ違うし、地面に接する部分だけはどうしても1軒ずつつくっていき、手間がかかります。手づくりと評価されてもよさそうです。
 
新築ですが、つる植物を誘引するポールを建築的につくっています
しかも、新築のマンションに入居すると、1年点検、2年点検と面倒ですね。「商品」のように完成度は高くなく、交換もできません。修理してもらっても、満足いかない場合もあるとなると、せっかくの新居が憂うつになってしまいます。
 となれば、発想を逆にして、それを楽しんではどうでしょうか。マンション(建物)はほかの物に比べて使われる時間が非常に長く、その中での暮らし方も微妙どころか、大きく変わっていきます。家族構成も変わります。修理するのではなく、住みながらつくっていく、変えながら住んでいくのです。
 マンションは竣工したときが生まれたとき。それから住みやすいように変えていくのです。住みながら好みの形につくっていけるとなると、心わくわくマンション生活は何倍も楽しくなります。なんたって、共用部分は管理組合が管理するのですから、あなた次第です。

 鉄筋コンクリートの建物は耐久性が高いと思われていますね。確かにそうですが、コンクリートはその性質上、劣化していきます。しかも日本のコンクリートは問題が多いと言われています。とにかく、鉄筋コンクリートの建物は定期的な躯体補修が必要です。そのとき、外壁のタイルや塗装の化粧直しも当然必要になってきますが、それは外壁のお化粧だけではなく、コンクリートそのものを守るということの方が大事ともいえる役目があります。このとき、今までとちょっと装いを変えると気分も一新です。色合いや質感を変えて楽しみながら安心感を得られてこそ、確実な資産といえるのでは。
 新しいスーツに、靴やアクセサリーを合わせるのがおしゃれのポイント。マンションも建物本体だけでなく、外構や付属の施設にも目を向けると、さらにイメージアップですね。

 
自転車置き場の緑化の例
マンション販売時に重要なのは当然、「住戸」、そしてエントランスホールまわりです。外構やそのほかの共用部分はちょっと力が抜けてしまう場合がありますが、そこは逆に管理組合が中心になってつくっていく、うってつけの場所です。生活スタイルや環境の変化から、駐車場や自転車置場の必要台数は変わってきます。スロープや手すりなどの要望も出てきます。そのとき、間に合わせに設置したり、修理したりせずに、どんな小さなところもきめ細かく、周辺に合わせてデザインすることが、住まいの快適さにつながります。
 マンションの外まわりや共用部分は、「住戸」では満たせない機能や空間、そして広がりを担う場なのです。積極的に生かしましょう。

 入居前の内覧会は3月が多いですね。まだ寒いこの時期に花が咲いている樹種を選ばざるを得ないし、アイストップにメインの樹種も必要です。マンションの植栽としてふさわしい樹種を選び抜けないのが設計していての悩みです。
 マンションの住まいでは、季節の変化や、風や光の移ろいを感じ取れると、生活にうるおいと季節感が強く感じられます。季節変化を敏感にあらわす緑は身近である上に、重要な要素です。
 緑の種類を豊かにすると、季節の変化を大きく感じられます。萌え立つ新芽、春に花咲く樹木、初夏の新芽、紅葉、冬に色づく実など、季節ごとの色合いを考え、大きな樹木から、低い植込み、地面を覆う地被類や草花類までを組み合わせると、1年中それぞれの装いが楽しめます。山野にある自然の植生はその種類が数え切れないほど多いからこそ、その変化と複雑さから魅力を発揮するのです。たくさんの種類の緑を植えると、自然の状態に近づいて、緑のやすらぎとしての効果も大きくなります。
 そんな緑は生き物です。緑という自然がないと私たちの生活にうるおいが欠けてしまいますが、住まいの身近に必要な緑は、私たちのために都合よくコントロールした緑でないと快適に過ごせないのです。だから緑が欲しいといっても、ジャングルの密林には住めないし、そんな濃厚な緑は、とてもとても扱いきれません。
 とはいっても、元気のない緑では私たちも元気になれないし、緑自身もフィトンチッドという癒しの香りは放ってくれないそうです。緑の効能はいろいろいわれますが、私たちのストレスを感じる生活からのさまざまな歪みを、緑という自然を感じることで修正できるのですから、緑の質は重要です。
中庭にオオモミジとメグスリノキを植えています。2種類のモミジを植え、紅葉の違いを楽しむ狙いです
 その重要な緑が、日照りや水はけのいい広い場所にのびのびと植えられるとはかぎりません。都会のマンションの外構は、自転車置場、駐車場、ごみ置場などでふさがり、しわ寄せは緑に来てしまいます。無理矢理植えた結果、枯れた緑もあるのではないでしょうか。
 となれば、あの手この手と緑の生きるところを探すべきですね。植え込みだけでなく、壁面やバルコニー、屋上といろいろな場所と手段が考えられます。下町の庭のない建て込んだ界隈で、所狭しと置かれた植木鉢を見るのはいいものです。緑だけはかぎりあるマンションの敷地の中で魔法のように増やすことができます。これは魅力でしょう。
エントランスポーチ
 1.階段室型でエントランスホールのないマンションでした。入口の扉もなく、オートドアを新設し、内部となったホールの壁は石調の仕上材、天井は波型のガラスとインテリアも一新。ポーチのガラススクリーンは風除けと同時に、館名文字をしつらえ玄関らしくなりました。
 2.道路に面した広場の中です。街からよく見えるので、周りへの見え隠れを期待してスクリーンで自転車を隠しながら、空が透けて見える屋根です。つる植物が伸び始めて、将来は緑のスクリーンとなります。
 3.外廊下の風雨の吹き込み除けです。雨風の吹き込みは防ぎたくとも、爽やかな季節のそよ風は感じたいし、ガラス越しじゃなく直に外を見たいし、ガラスの掃除も考えなきゃと改修に付物のたくさんの要求をクリアした、ルーバーと腰のガラスの組み合わせです。外廊下の単調さに変化と陰影をつけ、建物の外観も生き生き。このルーバーが庇となって、外壁の汚れも目立ちません。
近藤 一郎(こんどう いちろう)
建築家、1949年福岡県生まれ、1971年法政大学工学部建築学科卒業。
住宅やマンションを中心とする建築からランドスケープまでを手掛ける。長く気持ちよく住み続けられる建築や街であってほしいと、新築にとどまらずマンションなどの改修やリノベーションまでを活動範囲とする。改修では塗替えや修繕に止まらず、空間の質や機能を今以上に高める提案性を大事にしている。
有限会社プラナーク設計 
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自転車置場 外廊下のスクリーン

月刊ウェンディ188号より編集・転載